メモのような日記のような(4) 2021.03.14-

Akihiko Koga

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目次 (上が最近のものです)
  1. AI との共生 - "A*x ≥ B" should hold in "y = A*x + B" - 2023年4月16日(日)
  2. 認知能力の限界とその割り振り 2022年5月6日(金)
  3. 選択公理と√2 2021年10月28日 (木)
  4. Division by Zero の調査とその勉強会のお話 2021年10月2日 (土)
  5. 英語の L と R の聞き分け練習/実験 2021 年 5月 30 日 (日)
  6. ガロア接続 -- 友達(準同型)以上,恋人(同型)未満? -- 2021 年 3月 14 日 (日)

AI との共生 - "A*x ≥ B" should hold in "y = A*x + B" -

2021 年 4月 16 日 (日)

ここ1週間くらい,最近話題になっているテキスト生成系 AI の ChatGPT や画像生成系 AI の Stable Diffusion を触ってみているが,その発展度合いに驚いている.

私は,昔,学生の頃,一応は,古典的な探索を中心とした AIは学習していて,会社に入っても一時期はエキスパートシステムや遺伝的アルゴリズムなどの AI技術に触れたことがある.ニューラルネットワークに ついては,自分ではプログラムまでは作ったことがないが,知り合いが作るのを見ていた.

退職した今,深層学習などの最近の技術にはすっかり取り残されているが,ある程度は,これらの技術に鼻が利くというか, 今の AI 技術がどんなものか,一般人より多少は感じることはできていると思う.あくまで,「多少は」であるが.

冒頭にあげたような最近の AI に触れてみて,私の感触では,AI の発展はすでに危険な地点まで来ているのではないかと思った.そこで,自分自身の頭の整理と周りへの警告の意味で

について,思うところを述べようと思う.それぞれの項目は,ある程度長くなると思うので,上の項目リストから飛べるようにリンクを張っておいた.

それで,ここから書き始めることになるのだが,書き終わってみると,やはり多量の書き物になってしまったので,まず,結論だけ書いておく.

今回の日記の「私」の結論

以上が,今回,私が至った結論である.では,こういう結論に至った理由を最初から順を追って説明する.


● ChatGPT などを触ってみての感想

主に ChatGPT に関して述べる.私が扱ったのは無料のアカウントで使える ChatGTP-3.5 である. 今は,有料のアカウントなら ChatGPT-4 が使える.聞くところによると, ChatGPT-3.5 を小学生とするなら, ChatGPT-4 は,大学生のレベルらしい.また,今年(2023年)中に ChatGPT-5 が現れるとか.本当に目まぐるしい速度の進歩である.したがって,私がここに書くのは1世代前の ChatGPT の様子である.

ChatGPT-3.5 を触ってみて,まず,その驚異的な応答能力に驚いた.最初,2・3の質問をした時点では, 「これはなんでも知っていて的確に答えるのではないだろうか?」と思ったが,対話を続けていくうちに, そうではないということが分かってきた.

ChatGPT-3.5 は,GPT (Generative Pre-trained Transformer) と呼ばれる AI である.これは,

ものである.

ChatGPT-3.5 について言えば,一般の問題解決機構(古い言葉で言えば,General Problem Solver)は組み込まれておらず,これそのものについて言えば,

人間が言葉でアドバイスを受けるという使い方
しかできない. とは言え,このアドバイスが的確なら,それだけで恐ろしい力(パワー)になるものではある.

ChatGPT-3.5 をしばらく使ってみて,気が付いたのは,今のところ得意・不得意があるということである. 一般的には,十分人間の役に立つ応答ができるし,小さなプログラム生成に関しては驚くべき正確さで, こちらの意図した回答を返してくる,それに対して,例えば,日本の昔話などはあまり知識がないのか 不得意なようで,とたんに馬脚を現してくる.ここでは,(1) 平均的な答え(2) プログラム生成(3) 日本の昔話の要約の例を紹介する(ここで上げた例は,急いで作ったので,後日入れ替えるかもしれない).

▶ 平均的な応答能力の発揮例

ここではドイツ語の会話の教材を作成してる場面を想定して, ChatGPT に指示を出してみる.

次の対話は,レストランで注文をする場面を想定して,会話のサンプルを生成させた例である.


私: ドイツ語の初級会話のテキストを作っています.レストランで注文する場面を題材に会話のサンプルを作って,A2レベルの単語とその意味を表にして,文法的なポイントを列挙してください.

ChatGPT: レストランで注文する場面の会話のサンプルとA2レベルの単語とその意味を以下に示します。
レストランで注文する場面の会話
シチュエーション:レストランで注文する場面

カフェテリアの店員: Guten Tag! Was möchten Sie gerne bestellen?

客: Guten Tag! Ich hätte gerne ein Sandwich und eine Cola, bitte.

カフェテリアの店員: Möchten Sie das Sandwich mit Salat oder Pommes frites?

客: Mit Pommes frites, bitte.

カフェテリアの店員: Und möchten Sie noch etwas zum Nachtisch?

客: Ja, ich hätte gerne einen Apfelkuchen.

カフェテリアの店員: Alles klar. Das macht zusammen 8,50 Euro. Möchten Sie bar oder mit Karte bezahlen?

客: Mit Karte, bitte.
単語と意味

    Guten Tag!:こんにちは!
    Was möchten Sie gerne bestellen?:何を注文されますか?
    Ich hätte gerne:私は...が欲しいです。
    ein Sandwich:サンドイッチ
    eine Cola:コーラ
    Möchten Sie das Sandwich mit Salat oder Pommes frites?:サンドイッチには、サラダとフライドポテトのどちらをお付けしますか?
    Mit Pommes frites, bitte.:フライドポテトでお願いします。
    noch etwas zum Nachtisch:デザートはいかがですか?
    einen Apfelkuchen:アップルパイ
    Alles klar.:かしこまりました。
    Das macht zusammen 8,50 Euro.:合計で8,50ユーロになります。
    Möchten Sie bar oder mit Karte bezahlen?:現金でお支払いしますか、それともカードでお支払いしますか?
    Mit Karte, bitte.:カードでお願いします。

文法的なポイント

    ドイツ語での挨拶は「Guten Tag!(グーテン ターク)」です。
    「möchten」は「欲しい」という意味の動詞で、丁寧な表現になります。
    「hätte gerne」は「~が欲しい」という意味の表現で、丁寧な注文の仕方です。
    名詞の前につく冠詞は、文法的に使い分けがあります。例えば、男性の単数形の場合、「ein(アイン)」が使われます。
    「und(ウント)」は「そして」という意味の接続詞です。
    「noch(ノッホ)」は「~もう一つ」という意味の副詞です。

これそのものをそのままテキストにする質はないと思うが,こういうたたき台を生成してくれるのは,作るもののイメージを明確にしていくのにかなり助かる. ChatGPT とこのような対話を続け,教材作りが細部に入ってきたら,例えば次のようにして 具体的なコンテンツを作らせて,それらを構成していくことで教材を作っていくことが できるのでは無いかと思う.

私: ドイツ語の動詞 gehen, kommen, sein  について,人称変化の表を作ってください

ChatGPT: 以下がドイツ語の動詞 gehen, kommen, sein の人称変化の表です。動詞の語幹に人称に応じた接尾辞を付けることで変化します。ich(私)、du(あなた)、er/sie/es(彼/彼女/それ)、wir(私たち)、ihr(あなたたち)、sie/Sie(彼ら/彼女ら/あなた方)に対応しています。
gehenkommensein
ichgehekommebin
dugehstkommstbist
er/sie/esgehtkommtist
wirgehenkommensind
ihrgehtkommtseid
sie/Siegehenkommensind

ここで示したほかに,例えば,ChatGPT に半年の講義のカリキュラムのたたき台を作らせ, それを修正していくなどのこともできる.ただし, 私はドイツ語が得意な訳ではないので,実際の先生が これで役に立つかどうかは確信がないので,あまり良い例ではなかったかもしれない.

人間も得意・不得手があるし,また,不得手な部分がなくとも,必要な知識すべてをカバーすることは できない.ChatGPT は,人間のそれらの知識不足をカバーしてくれる.なにか自分はその仕事の核部分は 得意なのだが,周辺の知識がないために捗らない場合は,とりあえず,ChatGPT にそれら周辺のことを 説明させ,大まかにそれらを把握したうえで自分の仕事を進めれば,かなり自分の仕事は 迷いがなくなり 捗ると思う.

例えば,システム開発が得意な人間がいたとする.しかし,彼は,デザインの知識,法律の知識, 経営の知識など,事業を起こすのに必要な知識を一人でカバーすることはできない.そのような ことが分かるスタッフを揃えようとすれば,かなりの費用が掛かる.こういう状況では,ChatGPT を 相談相手として,およその知識を仕入れ,仕事をしていくという方法がある.もちろん,ChatGPT が 正しいことを言っている保証がないので,安心感やおよその確証を得たり,方針を立てたりするために しか使えない.それでも,スタッフを雇う,あるいは,仕事を依頼するための費用はかなり押さえられる はずである.

このように,ChatGPT を使えば,確認は必要ではあるが,一人ではカバーしきれない知識を活用して 大幅に費用を削減し,成果の質と量をあげることが期待できる.

▶ プログラム生成

ChatGPT のプログラム生成器としての使い方は色々な人が見つけ,Web-site や Youtube などで 紹介している.私もやってみたがすごいと思う.

長くなるのでここでは簡単なものを二つだけ紹介するにとどめる.

例えば,次のものはテキストファイルを読み込ませ,ascii 文字の頻度を出力させるものである.

私: テキストファイルを読み込んで,その中で用いられている ascii 文字の出現頻度を調べ,CSV形式で標準出力に出力するC言語のプログラムを書いてください

ChatGPT: 以下は、指定されたテキストファイルを読み込んで、その中で使用されているASCII文字の出現頻度を調べて、CSV形式で標準出力に出力するC言語のプログラムの例です。ファイル名は "input.txt" としています。

#include <stdio.h>
#include <ctype.h>

#define ASCII_SIZE 128  // ASCII文字の数

int main() {
    FILE *fp;
    int freq[ASCII_SIZE] = {0};
    char ch;

    fp = fopen("input.txt", "r");
    if (fp == NULL) {
        printf("File not found!\n");
        return 1;
    }

    while ((ch = fgetc(fp)) != EOF) {
        if (isascii(ch)) {
            freq[ch]++;
        }
    }

    fclose(fp);

    printf("ASCII Code, Frequency\n");
    for (int i = 0; i < ASCII_SIZE; i++) {
        if (freq[i] > 0) {
            printf("%d,%d\n", i, freq[i]);
        }
    }

    return 0;
}

このプログラムでは、指定されたテキストファイルを開き、文字ごとにASCIIコードを調べ、freq配列の対応する要素を1つ増やします。その後、配列をスキャンして、頻度が0でないASCII文字を検出し、そのASCIIコードと頻度をCSV形式で出力します。

この例は,特に難しいことをやっている訳ではないが,このようなものが上に書いた指示程度で生成できれば プログラム作成に大いに役立つ.

また,html の文書も自動で作ってくれる.次の例は,画面に三角関数のグラフを描画する html文書を作らせた例である.これはコピーしてファイルにセーブして,ブラウザで表示させると期待通りにボタンを押せば sinカーブが描かれる.

前にも書いたように,人間,すべての分野をカバーしている訳ではないので,javascript での通常の プログラミングはできても,canvas の上に描画する色々な描画関数については殆ど知らなくて, 苦労して調べなければならないということはよくある.そういうとき,このような サンプルプログラムを 作ってくれる弟子がいればとても便利である(「弟子」と言ったのは,1980年前後に,このように プログラマのお手伝いさんをしてくれるソフトウェアを Programmer's Apprentice と呼んで研究している 大学があったのを思い出したからである).

私: html のページで,ボタンを押したら三角関数のグラフを画面に表示するものを書いてください.

ChatGPT: 以下はHTML、JavaScriptを使用して三角関数のグラフを描画する例です。この例では、三角関数のグラフを描画するためにCanvas要素を使用しています。

<!DOCTYPE html>
<html>
  <head>
    <title>三角関数のグラフ</title>
  </head>
  <body>
    <h1>三角関数のグラフを描画します</h1>
    <button onclick="drawGraph()">グラフを描画する</button>
    <canvas id="myCanvas" width="500" height="500"></canvas>
    <script>
      function drawGraph() {
        var canvas = document.getElementById("myCanvas");
        var ctx = canvas.getContext("2d");

        // x軸とy軸の描画
        ctx.beginPath();
        ctx.moveTo(0, canvas.height / 2);
        ctx.lineTo(canvas.width, canvas.height / 2);
        ctx.stroke();

        ctx.beginPath();
        ctx.moveTo(canvas.width / 2, 0);
        ctx.lineTo(canvas.width / 2, canvas.height);
        ctx.stroke();

        // 三角関数のグラフの描画
        ctx.beginPath();
        ctx.strokeStyle = "red";
        ctx.lineWidth = 2;
        for (var x = 0; x <= canvas.width; x++) {
          var radians = (x - canvas.width / 2) / (canvas.width / 2) * Math.PI;
          var y = Math.sin(radians) * (canvas.height / 2) + (canvas.height / 2);
          if (x == 0) {
            ctx.moveTo(x, y);
          } else {
            ctx.lineTo(x, y);
          }
        }
        ctx.stroke();
      }
    </script>
  </body>
</html>

この例では、画面上に「グラフを描画する」というボタンを表示し、ボタンがクリックされると三角関数のグラフを描画します。描画には、Canvas要素とそのgetContextメソッドを使用しています。グラフの描画には、Math.sinメソッドを使用しています。この例は、sin関数を描画していますが、同様にcos関数やtan関数などの三角関数のグラフを描画することもできます。

関数名やパラメータ名の指示なども受け付けて,プログラムに反映させてくれる.

私が試してみた範囲では,だいたい許容範囲のプログラムを生成し,ときどき, 私のより良いプログラムが 生成されていた.大きなプログラムを生成させて見た訳ではないが,このサイズの プログラムを小刻みに指示を与えて作っていくことはできるだろう.

もちろん,必ず正しいプログラムができる訳ではないし,作るプログラムの指示も短く,仕様を きちんと言ってはいないので,出来たものが正しいかどうかは,指示をした人が確かめねばならない.

しかし,全体のイメージが出来ているプログラマにとっては, 優秀な弟子ができたようなもので,適当に指示を与えていくことで,通常の数倍のスピードで プログラムを作成していくことができる.

また,一般にはソフトウェアを作るためには,こういう具体的なプログラミングは末端の作業で 本当に重要なことは,仕様を分析して,ソフトウェア全体の構造,アーキテクチャを作ることだが, ChatGPT は自然語処理がその本来の機能である訳で,仕様を分析して,登場するオブジェクトや それらの関係を抜き出すのは,むしろ,得意な仕事である.こちらも勿論,結果が正しいとは 限らないので,あくまでたたき台を作らせるような用途に使うことになるが,優秀な弟子に やらせる訳で,人間はずいぶんと楽になる.結果として,きちんと使うことができる人間が 使えば,全体的に数倍の生産性を得られると思う.

通常,ソフトウェア開発の生産性が数倍ある競合相手にはかなわない

▶ 日本の昔話の要約

しばらく使っているうちに,ChatGPT-3.5 は日本の昔話の要約が下手なのに気が付いた.

まず,この AI は米国製なので,日本のコンテンツ,特に昔話などは,あまり トレーニングデータに 入ってないのではないだろうか.また,日本語を扱うのも,英語を扱うのよりは下手なのだと思う. 結果,日本の昔話を要約しろと命ずると,話は不正確だし,色々な物語は混ざってしまうしで, とんでもない物語が出来上がってくる

しかし,実はこれが,ChatGPT の本来の姿なのだと思う.ChatGPT は多量の自然語データで 訓練された文章生成器である.従来の色々な文章から,適切と思われる語を並べて,文章らしきものを 作っているだけである.ただし,できるだけ的確に見える応答をするように,訓練,チューニングされている と思われる.したがって,あまり訓練もチューニングもされていない問が出されると,馬脚というか, ChatGPT 本来の性格がでてしまう.これはこれで面白いのだが.

まあ,実例を2つだけ見てみよう.

昨日の「カチカチ山の要約」

私: カチカチ山を要約してください

ChatGPT 3.5: 「カチカチ山」とは、作家の宮沢賢治が1924年に発表した童話のタイトルであり、自然と人間の共存、相互理解をテーマとしています。

物語の主人公であるサビエルは、山の中に住む不思議な生き物・カチカチ山を探すため、旅に出ます。旅の中で、サビエルは自然や動物たちと出会い、彼らの言葉や想いを理解し、友情を育んでいきます。

そして、ついにカチカチ山にたどり着いたサビエルは、山の中に暮らすカチカチ山たちと出会います。カチカチ山たちは、最初はサビエルを脅かし、攻撃しますが、サビエルが彼らの言葉を理解し、お互いを理解し合うことで、和解し、友情を結びます。

物語は、自然と人間、そして人間同士の関係性の大切さを、独特な言葉遣いや表現で描き出しており、多くの人に愛されています。

今日の「カチカチ山の要約」

私: カチカチ山を要約してください

ChatGPT 3.5: 「カチカチ山」とは、日本の童話の一つで、竹取物語の一部としても知られています。物語の主人公・かぐや姫が、竹の中から見つけた大きなクルミにはさんであったカニが、カチカチと音を立てて硬化していく様子が描かれています。

カニは最初、軟らかくて美味しいところを食べようと煮られますが、途中でカチカチになってしまい、食べることができなくなります。最終的には、カニがカチカチになった原因を作った犬と猿が、カニを割ってしまい、カニの身を食べてしまうという結末を迎えます。

この物語は、自分勝手な行動や貪欲さが、周りの人々を巻き込んで不幸にしてしまうことを教える寓話として、日本を代表する童話の一つとなっています。

このように,ChatGPT は全然違う話を,さも,知っているかのように答えてくる.

先に述べたように,実は,この「カチカチ山の要約」こそが裸の ChatGPT の姿なのだと思う.要は, 質問のコンテキストが 与えられたときに,それから発想される戯言(たわごと/ざれごと)発生器である.ただ,いろいろな訓練やチューニングが なされ,プログラム生成や人との話題に登場するようなトピックスについてはかなり妥当な応答を するようにしてあるのだと思う.

しかし,戯言発生器だからと言って,馬鹿にすることはできない.まず,訓練とチューニングによって, 普通の人間より遥かに優秀な応答をするようになるのだし,また,人間自身が戯言発生器でないと いう保証はない.私は,自分自身が戯言発生器だという自覚はある.

少なくとも,ChatGPT-3.5 で,プログラム生成など,それが得意な対象を選んで使えば,人間の パフォーマンスは数倍に向上するレベルであるし,その後の ChatGPT-4 はさらに高度になっており, またその後に ChatGPT-5 が発表される予定になっているのであるから,今後,ChatGPT などの AI を使いこなせる人間に対して,使えない人間は太刀打ちできないと思う.


● 近未来予測

ChatGPT などの AI ツールが,それを使える人間の能力を数倍に上げることから, 世の中は次のように推移するのかなと心配している.


年数については結構良い見積もりか,あるいは,それより早くなるかなという感触を得ている.一説に よると シンギュラリティ(AI が全人類を超える知能を持つ時)が2045年に起こり,その前兆となる社会の大きな変革であるプレ・シンギュラリティが2030年くらいに起こるらしい. 今の状況を見ると,これは早まるのではないかという気もする.今年(2023年),来年がプレ・シンギュラリティ元年と言ったとしても,私は信じることが出来る.

AIの研究開発を一時止めるという話もでている.実際,先日,イタリアは,個人情報保護の観点だが,ChatGPT の利用を禁止した.また,米国などで著名人が ChatGPT などの高度な AI の開発を6か月停止せよとの請願を出している.

たしかに,AI の研究開発と AI の自発的進化を止められれば良いのだろうが,これは無理だと思う

近代的な民主国家は,それほど強権が発動できる訳でもないし,すでにGPT-2 までは オープンソースでモデルごと世にでており,公的機関で留めたところで,個人や グループレベルでは野良AI が出てきて力を持ってきてしう.強権を発動できる国ですが抑えは 効かなくなるのではないだろうか.

私は,止めるのは無理なので,AI と共生していく,新しい,多少は人間寄りな価値観を 作っていくのが,唯一,可能な選択肢じゃないかなという気がしている. 止めようとすれば,それに従う表の社会だけが止めて,裏の社会や,軍事の研究だけが先行し, 力をつけてしまう可能性があるので,むしろ,止めるのは悪手,愚策だと思う. 苦しいけれど,我々は走りながら考えるしかないのではないだろうか.


● これからどうすべきか

AI は,人間の力を増大させるドーピング薬,あるいは,ブースターアンプリファイヤなどとして働くように思う.これを単純な式で表現すると,象徴的に,

y = A*x + B

y は,AIの支援でその人が発揮する能力
x は地頭(じあたま)の能力
A, B は定数

と表現できるだろう.本当はもっと複雑な式なんだろうが,これはあくまで象徴的な表現である. AI は,まず,人間がまったく能力がなくとも最低限支援してくれる部分がある. これが B である. 次に,AI から出たものを総合的に利用したり,適切に AI をガイドして解を得るような使い方を したとき,人間の力 x が A 倍されて,A*x になるとする.これらを総合したものが,その人がAIを 使ったときのパフォーマンスである.

そのうち,B はどんどん大きくなるだろうが,たぶん,今は,A*x の項が全体に占める割合は高いと思う. したがって,地頭 x が良い人間は,結果的に,x が小さい人間を市場から排除してしまうことになると思う. これが上で述べた第1段階,第2段階で起こる変化の理由である.

変化が落ち着いて,B が段々大きくなってきて,A*x が無視できるくらい小さくなれば,それは, 平等で平和な世界になるとは思うが,もはや,それは人間が主ではない世界ではないだろう.AI の 文化であり,人間は単に機械に養われているだけである.

したがって,A*x の項を B に匹敵するよりも大きくして,AI 支援の人同士が競い合う 世の中にならなければ,人の文明は終わりだと思う. つまり,A*x が,B に比して大きい状態は,AI は単に電卓や今の計算機のように 道具として人間を支援するという役割をはたしている訳で,あくまで人間が主であると言えるのである.

あるいは,B が A*x とほぼ匹敵しても良いかもしれない.その場合は, AI と人間が共同で 文化を作っていく.今,流行りの多様な価値観というものだろう.AI と AI支援の人間は, 単に出自が違うだけで,お互いを尊重して暮らしている.そんな世の中だ.

どちらにしても,近未来で達成できるような B と対等以上な A*x が必要になる. そのときの x は,今の人間のレベルと桁が違っているはずである.これを できれば,2030年代に達成しなければならない

あと,現在の子供たちが心配である.人間が AI を使う場合,それはブースターや アンプなので, 何倍かされる元の基盤の能力が必要です.彼らが成人するまでにそういう能力を 養ってもらわなければならない.それは,プログラミング教育程度のものでは ないと思う.

さらに,もうひとつ,彼らが成人して世に出たとき,活躍する場が残っていることが 大切だと思います.人間は欲得で動く部分もあるので,現在,ブースターを手に 入れて使うことができるようになった人たちが,根こそぎ成果を持って行って, 子どもたちが成人したとき,開拓すべきものがないということがないようにしないと いけないと思う.あるいは,現在の人は,次の世代ににつながる開発をすべきか.

以上は,ここしばらくは,人間に決定権があると仮定してのお話だが,すでに, 人間+AIの価値観で動き始めており,だんだん人間の都合(エゴ)だけでものを 決めることができない時代に入っていくと思う.その中でもできるだけ, 人間が不幸せに感じない方向付けをすべきかなと思う.


● それを支える学問と教育はどういうものか

A*x ≥ B を成立させる能力 x とは何だろうか?

また,それを支える学問,そして,その学問を 習得させるための教育とはどんなものだろうか? ここで学問と言っているのは,必ずしも,座学で 学ぶような学問だけでなく,例えば,コンサルタントがソフトウェア開発現場を分析するための ノウハウの総体みたいなものも含む.とにかく生存や発展に有益な知識の体系である.

「能力」については,ここしばらくは,今の人間で人を使ったり,問題を分析して, それぞれの答えを総合するようなものがあれば,勝ち組に入れると思う.しかし, それ以後はよく分からない.全体のレベルが上がれば,総合すべき知識も質,量ともに増えてくるだろう. 今の「有能な人」が,いつまでもそれらを扱いきれるとは思えない

「学問」についても,良くは分からないのだが,現在の, 数学や科学など,すでに体系付けられているものが ずっと有効ではないのではないだろうかという気がする.

現在の学問は,人間が,対自然,あるいは,対人間で生き抜くための知識が人間の能力に合わせて 構造化されたものである.

例えば,数学を考えてみる.数学には,微積分や代数,確率論など,多くの部分に分かれており, それそれの中には,種々の概念や定理などが纏められている.

そのような,現在の数学の体系は,たぶん,人間が自然に対して優位に立ち,生きるために有用な知識が まとめられたものである.また,中には抽象的な,応用から離れたものもあるが,それは応用を持つもの をより容易に理解できるような効果を持つものが多い.

数学は,現在の見方からすれば,公理から証明で導かれた定理の集合体である. 公理から導かれ得るものは無数にあるが,大部分は,人間は興味がなく,その中の いくつかをさらに,人間の趣味で分類したものになっている. 定理は,何度も行われる証明を省略するために再利用するためのマイルストーンであるが, どの命題を定理とするかは,やはり,人間の能力で関心のある命題の証明が容易なように 選ばれているはずである.

人間+AI の能力が変われば,それら数学の部分分野の切り分け方や定理の選び方も 変わってくるはずである. これがどのようになるかは,やはり,今後の AIの発展を見ながら考えていく必要があるだろう.

「教育」については,最終的には,それらの学問を習得するために再構築される べきだと思うが,まずは,今の子供たちが成人するまでの教育をどのようにするかという問題があると 思う.

今の子供たちがこのまま大人になったとして,今の教育レベルなら, せいぜい,今の人間レベルの知能しか持ちえない.しかも,AI の使い方によっては, 今より能力が低くなってしまうこともあり得る.なんでも AI に頼るようになってしまえば, 地頭の x の部分が育たない.

現在,教育において,ChatGPT を好きに使わせるべきだという主張と,使わせるべきではないという 主張があると思う.私は,その中間で,現在存在し,それが力になるものは基本的には使わせるべき だと 思うが,一方,A*x + B の A*x を大きくするために,地頭 x を大きくする必要がある.これは, AI の支援無しに,ある程度の問題解決能力や一般的な知識があることが要求されると思う. 教育界は,この能力が何なのか,どうやったら育成できるのかを真剣に考える必要があると思う.

しかし,何にしても時間が足りない.シンギュラリティは 2030年代には来ると思う.いまから やっていて,それには到底間に合わないだろう.

ここは,AI に待ってもらうというのはあるかもしれない.

とにかく人類が成熟して,A*x が B に匹敵するように人類を保護し,誘導せよ!

と.第3段階まで勝ち残った天才たちには,このことを AI に組み込む仕事をしてもらう というのはどうだろう. 妄想が過ぎると思うかもしれないが,私は割と本気で考えている.

私自身は,もう定年退職した身なので,年金暮らしをしながら,新しい時代の学問とは どういうものかを考えて,ときどき,このようなインターネットの隅っこのブログのような ページで発信していくことにしようと思う.

変化が激しい現代で,この記事がいつまで意味をもつことか分からない.でも,,私にとっては このとき,こういうことを考えたという記録になり,そして,近未来,どうなっているかの 差を認識する書き物になるだろう.

追記:

この記事を書いてきて,いま,巷で問題になっている,著作権の問題,個人情報の扱いの問題, 巧妙ななりすましなど悪意のある人間の手段になる問題などに触れていなかったことに気がついた.

これらは,確かに,直近の問題ではあるが,社会の中で生存競争が激しくなり,その結果,誰も勝者がいない 問題が顕著になってくれば,霞んでくるのかなという気がしている.

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認知能力の限界とその割り振り

2022 年 5月 6 日 (金)

最近,考え事をしていると,家事の手順を飛ばすことがあります.

例えば, 毎朝,朝食の準備に,具をのせたピザトーストをトースターに放り込んで後は焼くだけというところまで準備しておきます.他の家事が済んだ後,いざ,トースターで焼こうと思ってトースターを開けると, パンが入ってないことがあります.「ああ,そういえば,考え事をしていて,ピザトーストの準備をし忘れたのか」と思い出し,それから準備を始めるなどです.そういうときは,もう食べる気になっているときなので,結構がっかりします.

こういう経験をすると,人間の思考(認知)のためのリソースには限られた容量があって,1つのことにリソース を取られると,他に手が回らなくなるんだなということを実感します.

いま,実は,「雑談コミュニティの実験」なるものをやり始めました.これは,

会社などで,お昼休みの短い時間にするような雑談は, ということで,雑談は人間の知的な活動の活性化や能力維持のためにとても良いわけです.

だけど,歳をとっていくにつれて,そういうことが出来る社会的な環境の維持が難しくなって いく場合もあるので,ここは,ICT(情報通信技術)を使って,雑談の場を作り,運用する 実験をしましょう.

というようなもので,10人未満ですが,参加者が集まってくれて,実験を始めました.実験と言っても, 科学的な厳密な実験でなく,やってみて,その中でうまく運用するように工夫をしてノウハウを得ると いう類のものです.科学的な実験なら,実験の最中にこんなことを人の目につくところに書いて,被験者に 影響を与えるなどもってのほかですから.

それで,最初の話に戻りますが,やはり,こういうものの運用は難しく, 朝も考え事が多くなり,朝食のピザトーストの準備を忘れる頻度が多くなってくる訳です.この原因は, 人間の思考に宛てるリソースが限られているところに,比較的重い,いろいろなタスクを要求される からだと思います.

この手の思考や計算リソースのサイズを使った説明は,認知科学の書き物に良く出てきますね.ちなみに,「認知科学」とは,Wikipedia によると

情報処理の観点から知的システムと知能の性質を理解しようとする研究分野
だそうです(2022.05.06時点の記述).まあ,人間を計算機と思う訳ですから,その計算機が持っている 計算リソースを超えるような問題解決が課されると,目立ってパフォーマンスが悪くなってくるわけです.

で,この人間の思考/計算リソースの問題が上の雑談コミュニティの話にも大きく関係すると,今日,ピザトーストを食べそこなったときに深く思ったので,この記事を書いています.

つまり,

雑談は,確かに人間の知的な活動の活性化や能力維持のためにとても良いのですが, それなりに 人間の計算リソースを食うようです
ですから,雑談を多くしてしまえば,却って知的な活動の生産性を落としてしまうこともあるでしょう.

この手の現象は,世の中に山ほどあります.

従って,知的な生産性を上げることが目的なら,
t1, ..., tn をそれぞれ,タスク T1, ..., Tn へのリソースの割り当て,M をリソースのサイズとして,

t1 + ... + tn ≤ M の条件の元に

成果の値 f(t1, ..., tn) を最大化する

という問題を解くことが必要になります.

タスク Ti の中には,「雑談」のように,容量 M を拡大するものもあるかもしれません. それも,時間をおいて効果がでてくるものもあるかもしれません.ですから, 上のようなシンプルな最適化問題として定式化できるかどうかも良くわかりません. あぁ,だから自分は「実験」で ノウハウを得ようとしているのでしょう.

上の話は,あくまで,「知的生産性を向上しようという目的のためには」という目的をもったときの 話です.雑談で楽しむことがすべてなら,雑談にすべてのリソースを割いても構わないのです. 私は,本年度は,非常勤講師を辞めて,完全に無職になってしまいましたから,それでも構わないのですが, やはり,世の中は忙しい人が多いので,無職といえども,生産性の向上を考えていく必要は ありそうです.

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選択公理と√2

2021 年 10月 28 日 (木)

先日,集合論の選択公理(Axiom of Choice)2 の平方根に似ていると思いつきました.

選択公理とは,集合論の公理で,
集合 X の要素がすべて集合で,しかもそれらがどれも空集合でないなら,それらの集合の中からそれぞれ1個ずつ要素を選択した集合が存在する

という公理です.選択公理の述べ方によって, X の中の集合同士に交わりがあるとか無いとかのバリエーションはありますが, それらはあまり本質的ではなく,要は,X の各要素の集合からその要素が1個決まるという点が 重要なところです.

選択公理は,集合 X が有限集合の時は特に問題は無いのですが,無限集合のときは, 無限の選択をしなくてはならず,我々が数学をやるときの公理として認めて良いかに 疑義を挟む人がいるというものです.実際,選択公理を認めると,

「バナッハ・タルスキーのパラドックス」

半径 1 の中身の詰まった球を,点単位でいくつかに分解して,それぞれ回転と平行移動を施すことにより,2つの中身の詰まった半径 1 の球を作ることができる.

など,ちょっと我々の直観と合わない変なことが証明できてしまいます. でも,これを認めないと,数学で我々が日常使っている定理の中に証明できないものがいろいろと 出てきますから,数学者の大勢は「認める」という態度のようです.もっと正確に言うと,大勢は, 「そんなことをいちいち考えない」かもしれません.

選択公理が何か分かったところで,本題の,選択公理と √2 のどこが似ているかというと,

というところです.実のところ,これらは多少違いがあります.例えば, 上の集合からの選択は本当に選択していっているのに, √2 の場合は,小数点以下の各桁は 実は選択する必要がなく,一意に決まるところなどです.でも,私が似ていると感じるところは, 考えている範囲に,ある種の極限が存在するかどうかというところだと思います.有理数の範囲では 無限に長い小数を考えると,その極限が存在せず,実数の集合に拡張してはじめて,そういう極限操作を含んだ数学が可能になるわけです.これと同様に,もしかしたら,集合の集まりを十分沢山集めないと, 有限個の選択の結果の集合はあっても,無限個の選択の結果の集合は無いかも知れない訳です.

極限が無いという比喩としては,√2 だけでなく,閉区間の有限和は閉集合なのに,無限和に なると開集合になってしまうものがあること

の方が直接的かもしれません.

このように集合の集め方によっては,集めた範囲に無いかもしれない選択集合をとにかく「ある」と言っているのが選択公理なのです. すべて「ある」と 言った帰結の一つが,上に書いた「バナッハ・タルスキーのパラドクス」な訳です.条件をつけて「ある」と言えば,「バナッハ・タルスキーのパラドクス」は証明できなくなるかもしれません. それはそれで寂しいような気はするのですが...

通常,我々が使う公理的集合論 ZF より少し弱い公理系 ZFA で選択公理の否定が可能で あるという証明は以前読んだことがあり,それほど難しくなかったので,自分自身の 復習のつもりで

ZFA の思い出しと選択公理の独立性の証明への応用
に書いてみました.また,関連して選択公理と Zorn の補題の話も
Zorn の補題と選択公理のお話
にありますので,よろしければ見て下さい.

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Division by Zero の調査とその勉強会のお話

2021 年 10月 2日 (土)

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この間,とあることからゼロによる割り算に興味を持ちました.

0 による割り算は 通常は出来ないと考えられていて,計算機では 0除算の例外が起こったり,エラーが返ってきたり しますし,抽象数学の「体(field)」の公理でも

x≠0 → x・(1/x) = 1
と,x が 0 で無い場合にしか,x と x の逆数の掛け算で 1 にならないとしています.しかし, 1990年代後半から,Wheel (Wikipedia 日本語版では「輪(りん)」)という,ゼロによる割り算を許す代数構造が提案されているということを知りました.


実数体を輪に拡張した Wheel
1/0=∞=-1/0 と 0/0=⊥ が加わります

Wikipedia によると,Wheel ではゼロによる割り算を許す代わりに,いつも見慣れているいくつかの公式は成り立たないということです.例えば,分配法則

x・(y + z) = x・y + x・z
は最早一般には成り立たず,代わりにすこし難しい顔をした
x・(y + z) + 0・x = x・y + x・z
が成り立ちます.この式では,赤文字で示した 0・x という余計な項が 入っています.この項が 0 になるような x に対しては,分配法則はなりたちますが,0 にならない x に対しては,成り立たない訳です.このように Wheel では,0 による除算を許す代わりに,その代償を払っている 訳で,別に荒唐無稽の説を提案している訳ではないと感じました.

ちなみに,0・x = 0 が 成り立たない x とはどういう場合かというと,Wheel は 1/0 = ∞ や 0/0=⊥ という「数」を含めて おり,0・∞ = ⊥ = 0/0 と決めていますので,そういう場合です.それらの演算の 決め方は色々な方法があるのかもしれませんが,0・∞ = 0 と決める訳に行かない可能性も あるということは想像できるのではないでしょうか.

0 による除算を許す試みが他にも無いか調べてみると,次のようなものがある事がわかりました.

私の興味は計算機科学の数学であり,これらの提案は,別に 興味のど真ん中という訳ではありません.しかし,その周辺にあり,また,0 による割り算が できないのは,計算理論の単純化や計算機の実現にとっては邪魔だなと思っていたことも ありますので,これらの提案について調べてみる気になりました.

それで,調べ始めたのですが...,やはり家内が亡くなって1年以上になるのですが なかなか元気が 出ない状態が続いていて,1日に論文が1ページ以下のペースが続いたりしていました. 読むべき論文は20本位(たぶん,合計300ページ位,あるいはそれ以上)あります. このままでは終わらんと思い,知り合いに,Zoom でオンライン勉強会を開いて, サーベイの結果を発表すると宣言すると多少やる気になるかと思い,私が管理しているメーリングリスト(昔の会社の知り合いなど)や個人的な知り合いに,勉強会を2週間後に開く旨,投稿してみました.

「zoom でオンライン勉強会を開く」の絵

勉強会の日程は,私の都合で2週間後の土曜日 15:00-17:30 と決め打ちだったことも あり,あまり参加希望者はいませんでしたが,それでも,元の会社の知り合いで,H さんN さん,数年前に知り合いになった元日本 U 社の YMSK さんが興味を持ち,勉強会に参加してくれることになりました.もともと,沢山の人が興味を 持つような話題ではないので,私を入れて4人というこの人数は丁度良いのかなとも思いました. ちょっと言いなおします.より正確に言うと,このトピックスは沢山の人がそれなりに興味を持つ話題ではあるが,わざわざ抽象代数っぽい勉強会に参加しようという気にはならない話題ですね.

勉強会に参加希望者のH さんとN さんと YMSK さん

勉強会の日程を決めた後は,論文読みに気合が入って,1日に10ページとか,論文数本とかの ペースで進めることができるようになりました.もっとも,期限を切った勉強会を成立させる ことが第1目的になりますので,深い考察というよりは,発表資料を作成するための情報を読み取り,まとめることが 最優先の作業になります.

そういうことで,無事,0 による割り算のサーベイ勉強会 2021年9月11日(土)と,その理解のために勉強会の2日前に 開いた事前抽象代数思い出し会を Zoom でオンラインで終えることができました.ただし,一番期待していた YMSK さんはご高齢ということもあり, 体調不良で参加できませんでした.まあ,私としては,勉強会を駆動材料にして論文読みを 捗らせることが目的だったので,勉強会を開催できるだけの纏めができた段階で目的ははたしている訳ですから,まあ,満足かなと思います.ただし,勉強会が終わった後,この日記を 書こうという気になった9月末まで放心していたので,本当に勉強が捗ったかどうかは怪しいです.

この後,話は勉強会のごく軽い部分の話勉強会の中身の話に移ります.勉強会の中身の話も, ここは日記なので,あまり深くには入らないと思います.

尚,今回の勉強会でサーベイした取り組みは,(n/0)・0 = n になるような 体系はありませんでした.むしろ,x/0 が,∞ やエラーになるということ, あるいは,何か有限の値になるのだけれど,(n/0)・0 = n は成り立たないと いうことを整合的に理論化するといった取り組みのみです.個人的には (n/0)・0 = n が成り立ってくれると面白いと思うので,ちょっと残念です.


●勉強会のごく軽い部分の話

0 除算のサーベイの勉強会は一応,抽象代数学のお話だし,

やはり多少は思い出すための手順を踏んだ方がよいだろうと思いました. それで,次のように,本来の勉強会の前に,オンライン思い出しの勉強会を開き,それようの発表資料も 作りました.

で,こういう資料作成に時間を取られたのもあって,本来の 0 割りのサーベイが中々進みませんでした.

「あと,いくつか論文がきちんと読めてないのがあるのにどうしようか.思い出しの勉強会はやめようか.YMSK さんはもともと専門家だし,H さんは用事があるので来ないと言っていたし, N さんも資料を読んでおいてもらえば大丈夫そうな気がするし」

と思い,N さんに来るかどうか聞いてみたら,「来る」とのことだったので,諦めて, 思い出し勉強会も二人で開くことにしました.こういうのはやればやったで,役に立つものだし, それで後ろの勉強会の内容が減ったら,「ごめん」と謝るだけかなと開き直ることにしました.

思い出し勉強会では,Nさんはあまり長年のブランクを感じさせず,資料の内容を すーっと吸収していってくれて良かったのですが,会が終わる頃,来ないと言っていた H さんが来たのです.

それで,せっかく来たので色々話していたら,まったく,抽象代数の知識が 無いことが分かり,愕然としました.H さんは会社にいるときから知り合いで, 一時期,私の上司もしていて,私があまり仕事をしないので迷惑をかけていたのですが, そのときの付き合いでも,ここまでお互いの分野が違うと言うか,ここまですごいとは今まで分かっていませんでした.

私も,今,Hさんが専門にしているベンチャー企業を起こすとか育成するとかいうことに関してはまったく分かりませんし,人それぞれ専門分野があるので,別に抽象代数の知識が無いことはどうということはないのですが,やはり同じく理系出身だということからすごく認識のギャップを感じてしまいました.

それで,「思い出し勉強会」のその時点までは,私は,まだ読み切れていない論文をどこまで読み進めて 資料に入れるかを考えていたのですが,一気に,気が変わり,作業の方針を

今まで読んで理解できたところを,どれだけ易しく H さんにも 分かった気にさせるか(分からせるのは無理にしても)
大きくシフトしました.

それで,サーベイ勉強会の当日なのですが,Nさんは普通に議論について来てくれて,Hさんも,別に, 「つまらん,もっと簡単に要点を話せ」などの文句は言わずに,紳士らしく聞いてくれていて,時々,分かる範囲で質問してくれたりしながら,また,時々,メモをとったりしながら,発表から何かを得ようと努力してくれて,無事,2時間の勉強会が終わりました.

私も,勉強会を論文読みの駆動手段にするという目的があったので,勉強会の前に資料が 出来た段階で目的の大部分は達成していたのですが,二人に対して発表して,色々と議論した ことも役にたっているのでやって良かったなと思いました.

それで最後に,H さんが,

いや,良かったよ.面白かった.IEEE 754 の 0 の除算の話もあったし,すごく ためになった.
と言ってくれたので,頑張って二日間で分かりやすくして良かったなと思ったのですが, H さんは続けて
いや,でも,途中の数学の話が多かったかな.そこが無かったら,もっと良かったと思うな. うん,数学の部分を全部除いたら良かったんじゃないかな.
と言っているのです.いやいや,H さん,今回の勉強会は数学の勉強会なんですよ.それで数学の 部分を除いたらどうなるんですか.らっきょを食べに行って,皮が多いと文句を言っているようなものですよ.

と言うか,H さん,そもそも私は数学しか出してないはずなんですけど,ほかに 何を食べているのでしょうか? 絶対,どこかで拾い食いかなんかやってるでしょう.

まあ,あの勉強会で数学以外に得たものが有ったみたいなので,彼は 「無から有を作り出す」能力のある人と思っておくことにします.私の方も,おかげ様で,中途半端に理解 した内容を盛るのではなく,分かりやすい表現にすることで,分かっている部分をより深く掘り下げることができた訳ですから,感謝もしておきたいと思います.


●勉強会の中身の話

0による除算の勉強会の PDF 資料も公開することも考えましたが,やはり,デリケートな 話題も多いのかなと思い,ごく簡単にだけ,どんなことを書いたかここに書いておきます. そのうち,別のページでもう少し詳しく公開するかもしれませんが.

勉強会では主に次のものを発表しました.

以下,それぞれの概要です.


追記: H さんが拾い食いしていたもの

2021年10月7日(木)

勉強会が終わってから,NさんとHさんとメールで話していたら,H さんが数学の話題以外に 拾い食いしていたものの正体がなんとなく分かりました.

たぶん,それは「説明」とか「分かる」ということの本質は何かということだと思います. 勉強会の後のメールで,H さんは,

なぜ,なんだか全く分からない私にその論文の内容は「なるほど」と 思わせるのか? 論理的(数学的)思考とは何なのかを考えたくなって,いろいろ調べていた
という類のことを言われていたのです.

「説明」に関してなら確かに数学以外も入れましたので,それを受け取っていたというのは 納得がいきます.何しろ,勉強会のプレゼンの内容を

今まで読んで理解できたところを,どれだけ易しく H さんにも 分かった気にさせるか(分からせるのは無理にしても)
に大きく方向転換した訳ですから.

それで,H さんへのメールに次のように書いたのですが,書きながら,この整理は案外使えるかなと思いました.

上でちょっと見たように,「分かる」ということを考えるとき, の要素があり,圧倒的に後者に重要性があるように思います.
これを図で書くと次のようになります.

つまり,物事の説明のためには,論理的にきちんと繋がった命題列からなる部分, すなわち,「Logic の部分」が必要になるのですが,それが膨大になると人間は それだけを受け取ることができません.したがって,それを上手く受け取らせるための 別の情報「Logic 以外の補助部分」が必要になってくるわけです.ここの補助部分には 問題のそもそもの動機や説明の概要,喩え(たとえ),説明を理解した時の予想される利益などがあります.この二つをゆっくり時間を掛けて渡すことでやっと説明を人に渡すことができる訳です.

実は,図を見てもらうと分かるのですが,Logic の部分でない箱の名前が上のメールの 内容とズレてしまっています.メールの文面の中では, 「人間の中での変化の部分」と 言っていますが,こちらの図の中では「Logic 以外の補助部分」と,少し一般的で, かつ,思い込みの少ない表現になっています.また,箱の内容もズレています.この短い間にこれだけの ズレが起きると言うことは,この部分は,曖昧で多量にあり,中々整理できないところだと いうことです.

それで,最初に書いた「案外使える整理」とは何かというと,「説明」の 類をこの

の2軸で特徴づけることです.

私は 2014 年に会社を辞めて,あまりやれていなかったお勉強をしたいと思うと同時に, お勉強の成果は,なにか講習会とかをやって小銭を稼ぐ手段にならないかなと思ったので, 「説明」とか「理解」に関する調査を色々やったことがあります.教育学とか, 認知心理学/認知科学,プレゼンテーションの仕方,文章の構成術,物語の作り方, 説得術,交渉術など,普通,「説明」に直接結びつかないものまで,いろいろ調べました. これだけいろいろ調べたのは,上の「Logic 以外の補助部分」が「分かる説明」を つくるためには とても重要だと,直観で,感じたからです.別に,頭の中で,重要だときちんと整理された訳ではありません.結果,「Logic 以外の補助部分」の断片的なノウハウはいろいろと 溜まっていきましたが,それが整理された状態には至っていないのです.要は,上で,メールに 書いたことと,ここで図に書いたことにズレが生じているような状況です.この部分は実に 膨大であり,それぞれで,話す目的に応じて,分かる量に限定して出そうとすると そうなってしまう訳です.

2軸に分けて何が見えて来るかというと,例えば,

Logic の部分 Logic 以外の補助部分 説明の類
正しくて膨大 殆どない 下手な説明
正しくて膨大 適量 工夫した説明
正しくて膨大 シンプルな絵から顧客と一緒にゆっくり組み立てていく コンサルティングなどの技法
不明・ギャップが大きい 多量 説得
間違っている 多量 詐欺

のように色々な説明の類をこの2軸で説明できるかなと思ったわけです.上の表は,それぞれの 軸に入る内容が均質でないので,もっと多次元に分けなければならず,すぐ膨大になるのですが, とっかかりとしては良いのではないかなと思った次第です.「Logic の部分」と言っているのは,本当は「説明されるべきもの」で,「Logic 以外の補助部分」は「説明を伝達する手段」と言い換えるべきものなのかもしれません.

これは思い付きなので,今度しっかり考えてみて,なにか有効そうなことがでたら,続編を書くかもしれません.

最後に,これに関連して「ロジカルシンキング」という用語に対して思うことを書きます. 80年前後に人工知能に多少触れた身からいうと,「思考」や,その結果の外的な表現としての「説明」では 私はロジック以外のものの方が圧倒的に重要だと思っています.

例えば,自動定理証明で,とにかくロジックをつなぐ推論機構はすぐできるのに,実際に実用的な定理を証明しようとすると, 膨大な空間の中を長い証明を求めて,殆ど止まらない手続きになってしまいます. そうでなくて,予め戦略みたいなものを持ち,それに従って,飛び石的に証明を構成し, 後で,その間を埋めていくということが必要になってきます.つまり,上の分け方で言うと, Logic 以外の補助部分を探し出してうまく組み込むとこが必要な訳です.

「ロジカルシンキング」も 同じで,本当にロジカルにシンキングしたら終わらなくなってしまいます. それで,「ロジカルシンキング」で実際やっていることは,内容をみると,実は, ロジカルっぽいけど,ロジカルでない技法の習得です.ですから,この名称はおかしいのでは ないでしょうか.「ロジカル〇〇」は人を引き付ける効果はあるのかもしれません. 「非論理的思考法」というと売れないのでしょう.そうすると常套手段で「超」を付けるんですかね.「超論理的思考法」とか「超ロジカルシンキング」とか.

まあ,うまく,「説明」周辺の概念がまとまると良いと願いつつ,今回のお話は終わりにします.

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英語の L と R の聞き分け練習/実験

2021 年 5月 30 日 (日)

今回は計算機科学の話ではなく,英語のお話です.

ここ最近,英語の L と R の 聞き分けの練習というか実験をやってます.私は英語のヒアリングが 全然ダメで,会社にいるときも苦労していたのですが,今は退職して時間が かなりあるので,ちょっとしつこく L と R の聞き分け訓練を したらどうなるかなと思って,今年の1月半ばから,毎朝, L と R の発音練習を10分~20分程度やっています.もう,4カ月半になります.

ヒアリングなのに発音練習なのは,意識して音を出す練習をしたら,その結果 聞こえてくる音と意識が結びついて,強固な連結になり,ヒアリングに寄与するのじゃ ないかなと思ったからです.それには正しく発音できているという 前提がなりたっていないといけないのですがどうでしょう.一応,会社に いるとき欧米の方々とかと話しても変な顔をされたことはないと思うのですが... 欧米の方々も一般的には気を使われる方々が多く,あまり相手が嫌がることは言いませんからね.

練習の内容は,L と R のミニマル・ペアを延々と発音していくだけです.

語頭だけでなく,語中,語尾もやります.全部で,25ペアを作成して,それを毎朝 発音練習しています.発音するときは,L と R の発音に気を付けながら,その 子音の部分を強く 長く発音していきます(その直後の母音でなく).L~Light とか R~Right のような心持で発音するのです.

今5月の末ですから,すでに4カ月半続けている訳です. Youtube に L と R の聞き分け動画

Listening Practice for "L" & "R" sounds [ ForB English Lesson ]

を見つけました(リンクが切れると嫌なので,直接のURL は書きません).

この動画の最初の4つは確実に聞き分けられるようになったのですが, 最後の Loyal-Royal だけはどうしても確実には聞き分けられないのです. 彼の発音の Royal のいくつかが Loyal に聞こえて しまいます後日記2). これを間違えるので,前の4つも,もしかしたら別の手がかりで 聞き分けている可能性もあり,成果が上がっているやらどうやらです. 一応,音色で聞き分けている積りなのですが.感覚的な表現なので伝わるかどうかは 分かりませんが,私は,L はクリアで少し全体的に高い音,R は周波数の低い成分が混ざった ネトっとした,舐めるような音という印象です.それぞれの音のフォルマントからの自分なりの思い込みかもしれません. ちなみにその動画で取り上げている単語の対を上げておきます.

この動画で発音している人の名前は Robbie なので,練習問題に彼の名前が入っていて 面白いですね.

で,本当に最後の Royal は聞き取れないので,もしかしたら, Robbie が意地悪して Royal をワザと Loyal と発音していると疑いたくなります.

この練習/実験の結論ですが,ミニマルペアが全部区別できるようになったというのなら 役に立つ実験だったのですが,残念ながら,私の場合は現在のところ,Loyal - Royal は区別できてないと 思います.まあ,皆さんにはあまり役に立つ情報では無くて申し訳ありません.

ちなみにいくつか L と R の入った短文を作りましたので,数個, 書いておきます.

英文が正しいかどうかは自信無いです.

話は変わりますが,私が会社にいたときは 社内で TOEIC のテストが実施されていました. 外部の会場でなく,会社の中で受ける, 所謂,IP テストというやつです.会社からは 800点以上(満点は 990 点)を取るように 言われるので,半年に1回受けていて,全盛期には 800点以上とれていました.もっとも, そのくらいでは,実践の場であまり聞き取れてはいませんでしたが...

今回のお話では,上に書いた実験であまり役にたつ情報を提供出来なかったので,代わりに TOEIC テストで点数を稼ぐコツを書いておきます.

やはり,会社から 「800 点以上とれ」と 言われるので,私でもそれなりのプレッシャーを感じますし,それなりに点を伸ばすように頑張ります.そうして考え付いたものの中で,もしかしたら皆さんにも 役に立つかもしれない工夫や鍛錬の方法を3つだけ書いておきます. それらは次の3つのことに基づきます.

  1. TOEIC は2時間の長丁場の試験である.
  2. 出来るだけクリアに音を聞く必要がある.
  3. 試験は次々に進んで行くので前の失敗を引きずらないようにする.

これらに対して次のように対処します.

  1. TOEIC は2時間の長丁場の試験である.

    私はヒアリングより,後半の Reading の方がマシなので,前半のヒアリングで疲れないことが 高得点への鍵です. 根性さえあれば後半の Reading で点数を稼げるからです.そこに至るまでにへとへとに なっていれば文章を読む気力も無くなって本来の実力は出せないでしょう. そのためには,試験が始まる前に適度な栄養補給を行うことが有効です.かといって 何か食べ過ぎても眠くなってしまうかもしれませんので,試験の始まる何分前に 何をどれだけ食べたら良いかを試行錯誤で突き止めます.そうして万全の体調で 試験に望みます.

  2. 出来るだけクリアに音を聞く必要がある.

    試験の最中に耳に手を当ててはいけないという規則は無いはずです.うまく耳の周りに 手を置いて収音します.ただし,音がこもる可能性があります.うまく聞こえない場合は 諦めて普通に聞きます.手をどのような曲面にすれば音がこもらないかはまだ十分 調べつくしていません.それと耳に手を置いてはいけないという規則があった場合には ごめんなさい.

  3. 試験は次々に進んで行くので前の失敗を引きずらないようにする.

    はい.録音音声の再生に従ってどんどん試験は進んで行ってしまいます. 「今のはどうだったかな」と思っていると,次の問題を聞き損ねます. そこは引きずらない心の持ち方を養うと共に,そういう前の問題で迷った時の 行動を決めておきましょう.「迷ったら何番」とか「2つの選択肢で迷った場合は ...の方を選ぶ」とか,とにかく引きずらないで次の問題に集中できるように しましょう.「引きずらない心の持ち方」には瞑想や座禅なんかが良いかもしれません. ここで精神的に疲れないことは,上の「TOEIC は2時間の長丁場の試験である.」の対処にも寄与します.

どうでしょう? あまり英語自体の勉強とは関係のないコツでしたが, きちんと勉強したうえで,さらにもう1・2歩,点数を伸ばすにはあり得る方法だと思います. 5問くらいは余計に解けるかもしれません.TOEIC は,200問 990 点満点で, 点数の補正もやっていると思いますので 一問5点ではないとは思いますが,5問で 20点位にはなるのではないでしょうか. 790点 と810点では,回りに与える印象が違うでしょう.

試験に対して,不正はいけませんが,不正でない範囲で色々な方法で工夫するのは 構わないと思います. ただし, 上の方法で失敗したとしても私は責任はとりません.あくまで自己責任でやってください.



P.S.

次の話は「英語の L と R の整理」ではあるのですが,今の時点での私の想像で, ほぼ自分の備忘録用の文章です.以下を読む人は,少なくともこれを書いている人が Loyal-Royal が区別できていない人だということを思い出してください.

語頭にあるときの L と R の発音は次の3つの期間があり,

  1. その音を出すための準備動作の期間
  2. その子音が発生している期間
  3. 次にある母音に移行するための期間
基本的には,それぞれの子音は2番目の「その子音が発生している期間」に発生する 音で認識するべきなのだけど,ノンネイティブには副次的に生じる前と後ろの音で 認識できる場合もある.

L は舌を上の歯のすぐ後ろあるいは,歯に挟む位置に持って行く動作があるが,特に 音が発生するということはない.それに対して R では口をすぼめる動作で小さな「う」の ような音が発生することがある.

そしてしばらく,それぞれの子音の発生があり,次の母音に移行するとき,L では 舌が歯の後ろから離れる動作が起こり,そのとき弱い破裂のような音が発生することがある. 一方,R ではそのような強い閉鎖は起こっておらず,ここでの破裂は起こらないか,あるいは, かなり弱い.

そして,それぞれの子音そのものの音は,

なのかなという気がする.

後日記載:2021.06.16

自分の声だけでは良くないのかなと思って,Youtube で Fanny という女性の話者の L と R の練習の動画を見つけて,自分自身の発音練習の後に,この動画も使って 練習するようにしました.彼女の発音を聞いてマネする練習です.動画のタイトルは

L vs R Consonant Sounds | Learn English Pronunciation Course | 158 Words | Minimal Pairs

途中,79 対のミニマルペアを次々に発音するところがあって,
ビデオの最初から 12分 10秒くらいのところ(lust-rust)で,
腕がかゆくなって我慢できなくなったのか,左上腕を掻いているところがあります.
そこに来るともうすぐミニマルペアの練習が終わるんだなと判断できます.

です. 全部で18分弱の動画なのですが,最初の 12分 38秒までを毎日やっています. 最初に発音の仕方の解説と練習があって,後は,ミニマルペアを 79 対練習します. 6月1日からだから,もう2週間以上になりますが, 結構,音色の違いが聞けてきたような気がします.やはり,ネイティブの発音を聞くのが 大事なのかもしれません.あと,日本人にとっては L と R の区別が付きにくいみたいですが, R と W の発音も似ていて,英語ネイティブの子供たちは,R が上手く発音できない内は W で 代用するみたいです.最近,私は,R が W に聞こえることがしばしばあるのですが,この3つを整理して 発音と聞き分けの練習をすると良いかもしれませんね. とか,少しずつ音が違っていて,音色の聞き分けの練習になるかもしれません.

後日記載2:2021.06.20

先に,Robbie の Youtube のミニマルペア Loyal-Royal で,Royal がどうしても Loyal に 聞こえると書いたのですが,これは逆のような気がしてきました.私には,彼の Loyal が Royal に 聞こえているのでしょう.これは最初の L が良く聞き取れて無くて,その後に R のような音が 混じっていて,そこを聞いてしまっているという仮説をたてました.この仮説の内容自体は 今は言いませんが,たぶん,後ろの母音 oi が関係していると思います.また,R 自身も この母音の場合は L に近づくような気がします.


後日記載3:2021.10.02

実は,LR の聞き分け練習はまだ続けています.今は,Youtube の3人目で Molly と いう人です.時々,1人目の Robbie のも聞いて,聞き取れるようになったか テストしています.およそは聞き取れるようになったし,色々な状況で,音がどのように 変化するのかも分かってきました.例えば,crash のように c の後ろに r が現れると, r の準備音というか,それも r の音の一部というかの音が c [k] の後ろにかぶさって, [k] が擦れるような音になることがあったりします.毎日やっていると, そういう色々な気付きがあるのですが,やはり時々 L と R の聞き間違いをします. ある領域での分別能力がネイティブではクリアに2つに分かれるのに,日本人など これらを区別しない言語の人々は曖昧な領域が大きいとか言われているようです.それを 体現しているような気がします.

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ガロア接続 -- 友達(準同型)以上,恋人(同型)未満? --

2021 年 3月 14 日 (日)

以前,ここで

同型とは単に要素の名前を付け替えたに過ぎない (2018 年 1 月 28 日 (日))

というタイトルのお話を書いたことがあります.それを書いた時の動機は,本当は,
「同型の二つの領域 P, Q があって,
P は全然分かってないけどQ は良く分かっているので,
Q の知識を使って P を解析する」

というような都合の良い状況がどれだけ起こるんだろう?
ただ単に,一方は他方の中の要素の名前を替えただけなのに!

そのとき役に立つのが
準同型と同型の中間的な概念のガロア接続なのだ!

ちゃん,ちゃん!

という趣旨だったのですが,書いているうちに,同型が結構役立つ例が 次々と出てきてしまい, 最後の主張

・・・ ガロア接続なのだ!

ちゃん,ちゃん!

というところまで行けなくなってしまったのでした.また,そのときは,ガロア接続についても, あまり詳しい解説を書いていたわけではなく,説明するのに結構長くなりそうな 気がしたので,「まあ良いか.今度にしよう.」ということにしてました.あと,そこでは, 同型の話だけでなく,後半は「数学において『名前』って何だろう?」という 話に流れていったような気がします.これはこれで深遠な問題で,分量も増えてしまいました.

それから随分たって,最近, 順序集合や束論の基礎のページ を大幅に書き加えたり,再構成した中で,「ガロア接続」もかなり沢山書きました. それで,今回のお話は,単に,その宣伝というだけです.ご興味のある方は, 次の図から該当ページに飛ぶようになっていますので,参照してみて下さい.

趣味のトピックス

ガロア接続 (Galois Connection)

追記:「計算機(主にソフトウェア)の話題」に ガロア接続に基づく形式的概念分析の実験プログラム も作成しました.2021.03.30

ガロア接続は,

「二つの順序集合間の,友達(準同型)以上,恋人(同型)未満の関係」
だそうです(「友達」と「恋人」は私が付け加えました).本当は同型も含むので,「恋人(同型)未満」という言い方は変で, 「恋人(同型)以下」なんでしょうけど,「以下」だとかなり劣っているような 感じがします.それを言い出すと,同型も準同型の一種だし,ガロア接続も準同型の一種だし, なんで準同型が友達で,同型が恋人なのか分からないし, 最初っから,まったくもって正しくはない表現なのでした. むしろ,同型は自分自身なので,それを恋人というと,自分自身を愛している人と 言うことになってしまいます.配偶者のことを better half という言い方もあるので それで良いのかもしれませんが. 言葉って難しいですね.

それで,ガロア接続が何か,役に立つのかなどはあちらのページに任せて, ここの残りは,ガロア接続でなく,同型の名残のお話で,なんで名前を付け替えただけの同型が案外役に立つのか, 忘れないうちにメモ書きだけしておきます.

私は系統的な考察は無理ですが,思いつくままに上げると次のようなことがあると思います.

  1. 案外,ビューの変化で同型に気付かないことが多いこと
    案外,人間は名前の付け替えや,ビューの変更(縦と横をひっくり返す等)が苦手で, そうやって同型を発見してびっくりする

  2. 同型を作り出す表現定理の活用
    数学では,同型を作り出す色々な表現定理があるので,とりあえず同型は作り出せる

  3. 同型で埋め込まれた環境の活用
    同型は対応する二つの集合だけでなく,もう一方の置かれた環境が参考になることがある

これらについてそれぞれ,ちょっとだけ説明して,今回のお話を終わります.

まず,「人間が同型に気が付かない」ということですが, 実際のところ,本当に結構気付きません.私なんざ,ちょっとした図形でも回転したり,反転したり すると,もとの図形と同じかどうか分からなくなります.私は,知らないところを歩いていて, 良く道に迷うので,あまり空間認識力が無いとは思うのですが,ちょっと見方を変えると 同型に気付かなくなるというのは,たぶん,私だけではないと思います.幾何学の証明は 合同な三角形をみつけて,それを使って証明することが多いのですが, 「よく,こんなところに 合同の三角形を見つけたな」というような気持ちになることは皆さん学校で経験していると 思います.2つの合同な図形は,回転,平行移動,反転を組合せて移動させられた図形の対である訳です.合同は同型の一種です.

こういう目に見えるものでも,同型に気付きにくいのですが,数学ではさらに抽象的で目に見えないし,イメージするのも難しいものを扱います.したがって,余計,同型を見て取りにくい訳です. 他にも次のような同型は分かりにくいです.

  1. コーヒーカップとドーナッツ
    つきなみで申し訳ありませんが,トポロジー的には同型(同相)でも,部分の 大きさが変ると分かりにくいです.

  2. 「集合 A から集合 B への二つの関数の組 f, g : A→B」と「B を頂点,A をエッジとするグラフ」
    まあ,これはどんな構造に関して同型とするかきちんと述べないといけないとは思いますが,次の図のような対応で直感的に理解してください.ある領域から別の領域への関数の組は, 1つのグラフ(頂点とエッジからなるグラフ)を表していると見ることができます. でも,このことは中々気付かないですよね.

  3. 「A ∧ X という形の論理式の集合」と「A→X という形の論理式の集合」
    ただし,論理式 A は固定,また,同値な論理式は同一とみなします.この二つの 集合は,導出可能性を保つ1:1の対応があります.

    言っていることが分かりにくいかもしれませんが,

    P := {A ∧ X | X は論理式}
    Q := {A → X | X は論理式}
    X~Y は X → Y と Y → X が両方証明できるという同値関係とするとき
    P/~ と Q/~ は [X]→[A→X] と [A∧Y] ← [Y] で同型.つまり,
    これらは,P/~ と Q/~の間の1:1対応であって,
    X1 → X2 なら (A→X1)→(A→X2) だし,
    Y1 → Y2 なら (A∧Y1)→(A∧Y2)

    これは,証明が要ると言えば要るものでしょうから,すぐ気が付かなくても 当たり前かもしれませんが,形を変えると分かりにくいという例で出しました. 圏論で,これに基づいた随伴関手を見たとき,目から鱗,「『かつ』と『ならば』は, 一種の逆演算なんだ」と感激する人は結構いると思います. .....すみません.あまり良い例では無かったかもしれません.

次に,「同型を作り出す表現定理の活用」について話します. 数学では多くの表現定理があります.例えば,

それぞれの分野で対象を,他の分野のより身近なもので表現するの表現定理がかなり あります.例えば,順序集合 (P, ≤) については,
f : P → 2P

f(x) := {u∈P | u≤x}

とすれば,P と f(P)⊆2P で順序を集合の包含関係としたものは同型です.

P の構造について全く知見がない状況で,f(P) の構造が分かっているかというと そんなことは無いのですが,少なくとも,(f(P), ⊆) 側では

ということで,解析しやすさが全然違うと思います.

最後に「埋め込まれた環境の利用」について話します.これは上の 表現定理と関連があるのですが,表現定理は,表現する数学的なモノだけを 表現するのではありません.通常,そのモノをもっと大きな領域に埋め込む ことになるのです.例えば,

f : P → H
という表現のための関数があったとします.f によって P と f(P)⊆H は同型になりますが, そのとき同時に私たちは数学的な領域 H の中での f(P) というモノを 得ることになるのです.ここで大事なことは,H は,通常,数学的にとても良い性質を持っていて P にはない色々な要素も持っていることが多いということです.そのような良い性質の代表的な ものは「完備」と呼ばれる性質です.これは,H の中の任意の部分集合に対して その「極限」が存在するという性質です.例えば,有理数の集合 Q を考えると,数列(例えばコーシー列)はその中に収束先があるとは限りませんが,それを完備にした 実数の集合 Rの中には 必ず収束先が存在します.

上の有理数と実数の例では,完備化の具体的なメカニズムが分からないと思いますので, もう一つの例として順序集合を完備化する例を見てみましょう.

いま,順序集合として次の図のような (P, ≤) があるとします.これはとある会社のとある課の 構成で順序関係 ≤ は上司-部下の関係とします.不等号に = も入っていますから,自分自身は 自分自身の部下でもあると思うことにします.この課では,課員 d と課員 e には,どちらが偉いとも言えない2人の上司 b と c がいるとします.昔の会社はきちんとした木構造だったので しょうが,最近はあまり新入社員を取る余裕もなく,また,定年になってもあまり無理には 辞めさせられないので,こういう歪(いびつ)な構造の組織もあるかもしれません. この順序集合では d と e の上限 d ∨ e が一つに決まりませんから束(lattice)にはなりません.

順序集合の表現方法として MacNeille の方法があります.それは,P の部分集合 X⊆P に対して

M(X) := X の上界の集合 の 下界の集合 for X⊆P
X の上界とは,∀x∈X に対して,それ以上の元
同様に Y の下界の集合は ∀y∈Y に対してそれ以下の元

M(X) は1つの元からなる集合に対しては次のような簡単な式になる.

M({x}) = {u∈P | u≤x}

を割り当てる方法です.つまり,P の元に対して,P の部分集合を対応させる訳です. これにより (P, ≤) は (M(2P), ⊆) に埋め込まれます. 上の順序集合で実際に計算して,この順序集合を求めてみると次のようになります.

確かに,P は右側の順序集合の中に埋め込まれます.右側の順序集合の中から,左側の順序集合に 対応する元だけ集めて来れば,それは (P, ≤) と同型になる訳です.しかし,右側ではあと二つだけ元が増えています.一つは,{d, e} でもとの d と e の上司で,b と c の 部下です.これにより,d と e に二人の上司がいる状態は解消されます.新しい 順序集合では {d} と {e} には1人の上司 {d, e} が置かれます.そのかわり,{d, e} には 二人の上司,{b, d, e} と {c, d, e} がいますが,束論的にはこれは問題になりません. {d, e} の上限は自分自身で良いのですから(まあ,現実的にはやはりこういう組織構造は問題にはなるでしょうが...).やっぱりこれは, 束論で会社組織を直接モデリングするのは多少無理があるということかもしれません.あと,もう一つ 追加された元は, {d}, {e} の共通の部下で {} です.完備化で彼らにも部下が出来たのですが, これは空集合なので,単に形式的に一人付けたことにしただけなのかもしれませんね.

色々と戯言を引っぱりましたが,同型も役に立つし,表現定理を使って,現実にはまだない,理想の世界の中に同型の領域を作り出して,その世界を味わってみるのも良いというお話でした.

ではお元気で.

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