本の表紙を考える
20th Nov. 2017 (First)
Akihiko Koga
ここでは本の表紙をデザインする方法を考えてみます.と言ってもプロと張り合って売り物にする
本の表紙をデザインしようという訳ではありません.なんせ,まったくの素人ですから.ですから,たとえば,
自分の勉強用にプリントアウトしたものを製本してみた.
せっかく本の形にしたので表紙も付けたい.それも,学習意欲が湧くような,いつも持って回りたくなるような,そんな気持ちにさせる本にしたい.
あるいは,
仲間内で作った同人誌に気の利いた表紙を付けてみたい.
こういう,自分たちの欲求を満たすための表紙をどうやったら作ることができるか.
ここでは,そういう動機から,本の表紙をデザインする方法を色々考察してみたいと思います.
本の外形を整えることを表す言葉としては
「装丁」という言葉があります.表紙のデザインは,「装丁」のごく一部と思いますが,一応,表紙以外のほかの観点も入ってくるかもしれないので,以下,
装丁という言葉を使います(でも,ほとんど表紙のことを言うと思います).
あと,このページではノウハウはそれほど出すことはできませんので,考察や参考文献の収集が
メインの話題になると思います.
補足:関連の実験として,青空文庫のテキストに表紙や挿絵を付けてみる実験を
青空文庫などの著作権フリーなテキストに挿絵や表紙をつける実験 (1)
で始めました.そちらは表紙の装丁に要求されるようなデザイン性などは
あまり考えずに
テキストの内容を分かりやすく,おかしく,表すタイプの絵です.
このページの趣旨とは少し違うかもしれませんが,ご興味の
ある方はぜひそちらも見てください.
2018.11.29 (Thu)
「良い」装丁というものはどういうものかを考え始めると,目的によって違うだろうなと
いう思いに至ります.もちろん,一般的に言って心地よい装丁とか,整った感じの装丁とか
いうのはあるとは思いますが,作る人,あるいは,依頼する人の意図によっていろいろな
目標が生まれるでしょうし,色々な工夫がなされるのだと思います.
一般には「売れる」ということは目標の一つでしょう.売れ方に対する希望も色々あるかも
しれません.ある人はロングランを希望し,ある人は,ぱっと売れて後はどうでも良いと
思うかもしれません.もしかしたら,売れないで良いという目標もあるかもしれません.
例えば,仲間内だけの同人誌を考えてみましょう.思い出に残りさえすればよいと
思うかもしれません.あるいは,個人の勉強の本を考えてみましょう.
彼あるいは彼女自身が満足すればそれで良いのです.
こう考えていくと一歩も考えが進みません.でも,いくつかの打開策が考えられます(まだ私は実行してませんが).
- 参照モデルを考えてみる
本の装丁に絡む登場人物とそれらの属性や関係を抜き出してみます.例えば,
次の図のようなとても簡単なステークホルダの絵を描いてみて,それぞれの
線にどんな情報を載せないといけないかを考えてみるとか.特に★の
部分を.私たちの場合は個人の趣味なので,出版社に相当する部分は
省略してよいと思いますが,同人誌などで,会の意思がある場合は
これを置いておいたほうが良いかもしれませんね.こういうモデルは
最初から複雑なものを設定するより簡単なものの方が良いと思います.
完璧なモデルを作ろうとすると,モデルを作るのだけが目的になってしまい,
モデルを作り終わったら,目的達成で気が抜けることがよくありますので(
例えば,
本当は読者の要望などは,出版社,デザイナ,著者に影響を与えるでしょうが
表紙をデザインするその時は,それは無視したほうが扱いやすいモデルに
なるなど,用途に応じて単純化が好ましかったりします)
私の場合は自分が持ち歩く数学のテキストの場合が多いので,
読者/購読者は私自身で,多少,そのテキストの内容が分かり,かつ,
引き付けられて,そのテキストを継続的に勉強させる表紙だったら
良いなと思います.
- 書物などから動機・目的,手段となる概念を抽出してみる
レイアウト技法の本,写真の構図の本などを読んでみると,目的と思われる
概念や手段と思われる概念が入り乱れていて,筆者は混乱しているのでは
ないかと思うことがしばしばあります(と言うか,いつもです).手段と思われる
項目の中に,動機や目的が配置してあったりといった場面によく出くわします.
たぶん,デザインやレイアウトの問題は一般的に考えると非常に多目的でかつ手段も多岐に渡るため,
整理がつかないか,ついたとしても膨大な体系になり,簡単に手にとれる
本にはまとまらないためかと思います.それで,デザイン屋さんが
日々の仕事を行うために持っている手段を適当な大きさにまとめたノウハウ集が
それらの技法の本でもそのまま出てきているのでしょう.
でも,一度,動機・目的の大きな部分から手段へと整理したものを
作成してみるのは有用なことでしょう.そこから抽象化して,うまい
参照モデル(各自が持っているノウハウを配置することができる枠組みのモデル)を
作ることができるかもしれませんし,一部を分かりやすく
説明するために部分的なモデルを切り出せるかもしれません.
あるいは,実は,動機・目的も階層になってなく,概念的な上下を時と場合に
応じて入れ替えることが必要かもしれません.このようなことに情報技術
を使ってみるのも面白いと思います.
まあ,これについては,今のところこれ以上割り当てる時間がありませんので,
こんなことをやってみたいなというくらいです.ただ,表紙をデザインする上で
いろいろな技法やノウハウを適用するとき,振り返ってみて,動機・目的はなんだったんだろうな
と考えると,デザインの方向性や特徴がはっきりすることがあると思います.
私自身,あまりノウハウはまとまってませんし,まとまっているとしても,本質に触れるところは
出すことができないと思います.飯のタネになるかもしれませんし.
ということで,軽く遊べるものをひとつふたつくらいかなと思います.
- 写真の構図は思いのほか役にたつ
人によって体系が違うかもしれませんが,よく耳にするのは,「日の丸構図」とか,
「シンメトリー構図」とか,「放射構図」とか,「S字構図」とか,名前だけで
想像がつくものがあります.
例えば,「日の丸構図」は,対象物を絵の真ん中に持ってくる構図で,平凡になって
しまうと嫌う人はいるそうですが,上手く使えばインパクトがある構図として
推す人もいます.私は結構使いやすい構図だと思います.右の表紙は
「束論」という数学のテキスト用に作成したものです.丸の中には,束に関係した
何かかっこいい絵を描きたいなと思っていたのですが,まだ,読む前だったので
実用性を考えて目次を配置しました.また,数学の理論書なのであまりけばけばしく
ならないようにこすり絵で人を配置しています.この表紙では,日の丸構図に,さらに
L(エル)の字型の枠を使って全体のバランスを整えました.左側の縦の部分は背表紙に
なる部分です.この本は今,誠意勉強中です(2017年11月20日時点).
一つ注意しなければならないことは,写真の場合横長の配置が多いのですが,
本の表紙の場合はだいたい縦長ということです.
- 映画の画面の構成法も結構役に立つ
映画は動きがあって,表紙など静止した絵と別の分野と思いがちですが,映画でも,
静止画として
切り出して意味のある画面構成がしばしばあります.例えば,このページのトップ
においた表紙のサンプルは,手前の人の肩越しに本来訴えたいものを置くことにより
「隠された真実」の意味合いを持たせて,見る人の興味を引くように作っています.
このことは下の参考文献の映像の構図に関する書籍で
詳しく述べましたので,そちらを参照してください.
- 絵を配置する話ばかりでしたが,テキストの配置や全体のレイアウトの話は
後に参考文献を載せましたので,そちらを勉強しながら,
皆さん,表紙自作の趣味に邁進しましょう.
- 装丁に関する書籍
- 装丁の仕事187人―Book design 2006 (玄光社MOOK―Workbook on books), 2005 年
各ページに装丁のデザイナーひとりとその作品が載っている.きっと187人分
あるんだと思う.一人の作品集ではないので,色々な人の趣向の変わった装丁が見られて
楽しい.気に入った装丁を選んで,なんでそういうデザインにしたんだろうと思いを巡らせるのは役に立つと思う.これはどの装丁集でも言えることだが.
このシリーズは沢山出ているみたいです.
- 少年少女昭和ミステリ美術館―表紙でみるジュニア・ミステリの世界, 2011 年
レトロな感じの少年少女向けの本の表紙がずらり.眺めていくだけで楽しい.何を
どのように配置しようとしたのか,どんなことを考えてデザインしようとしたのかなどに
思いを巡らせるととても面白いです.たぶん,現実は想像したものと違うでしょうけど,
そんなことはあまり重要ではありません.考えを巡らせることが重要なのです.
この類の参考書は,他にも,例えば,
- 少年少女 昭和SF美術館 単行本 – 2013
- 昭和ちびっこ未来画報 ペーパーバック – 2012
- 新装版 石原豪人---「エロス」と「怪奇」を描いたイラストレーター (らんぷの本/マスコット) 単行本(ソフトカバー) – 2010
おお! これは! 「エロス」と「怪奇」とな
など沢山あるみたいです.
- 装丁を語る。, 鈴木 成一 (著) , 2010 年
鈴木成一氏の装丁とそれをデザインしたとき考えたことを集めたものです.もくじを
みると,タオトル文字で伝える,イラストを使う,独語の印象から発想する,本の構造を利用する,
著者本人または関係する品を出す,本文中の素材で構成する,モチーフを形にする,アート作品を併せる,あえて何も使用しない,と色々なご自身の技法をカテゴライズして書かれています.
- 本の顔 本をつくるときに装丁家が考えること, 坂川栄治 +坂川事務所 (著), 2013 年
文字で装う,イラストで装う,色で装う,写真で装う,絵本を装う,と
装い方のテーマごとに分かれていて,それぞれの装丁を作成したときの
方針などが説明されている.
- 写真の構図に関する書籍
たぶん,写真の構図に関する本は沢山でていると思います.ここでは,私が
読んだことがある本だけ書いておきます.
「日の丸構図」,「シンメトリー構図」,「2分割構図」,「3分割構図」,
「斜めのダイナミックな構図」,「放物線構図」,「S字構図」のような
名前がついた構図が説明されているものが沢山あります.また,構図を考えるに
あたってというような内容の章が先頭に置かれている場合があります.
現状,あまり理路整然と整理されたものにはお目にかかったことがありませんが,
じっくり読むと色々筆者が経験から考えたことが書いてあり,考察に
役立つと思います.
特に外国の構図の本では,上のようないくつかの構図のパターンより
もう少し,アナログというか,文学的と言うか,あまり類型化しない
構図の本もあります.私は気が短いのでごく少数に類型化した本の方が好きだったり
します.
- 写真構図のルールブック 単行本(ソフトカバー) – 2012/10/24
内池 秀人 (著), 福井 麻衣子 (著)
- 写真の構図ハンドブック 単行本 – 2012/6
河野 鉄平 (著)
- 画面構成のテクニック―フレーミングの基礎から応用まで (玄光社MOOK (83))
少し古いですが色々なプロの人の写真が載っています.
- デジカメ写真の構図が上手くなる見本帳 大型本 – 2012/1/18
石田 徳幸 (著), 胡桃 (著), 須田 卓馬 (著), RV車 (著), その他
- 映像の構図に関する書籍
これは写真と違って動きを伴うテクニック(例えば,不自然さなく左右の人の位置を入れ替えるにはどのようなカメラワークが良いかなど)が多いですが,1枚の絵で使えるテクニックも
沢山あります.例えば,
と言ったものがあります.こういう小技,大技をまとめてくれている本があります.結構なアイデアの宝庫です.
- マスターショット100 低予算映画を大作に変える撮影術 単行本 – 2011/5/26
クリストファー・ケンワーシー (著), 吉田俊太郎 (翻訳)
例えば,Chapter 3 の「登場する/退場する」の最初の絵は印象的です.これは先ほど述べた肩越しの映像と扉を開く映像が組み合わされて使われているように思います.
本の表紙は amazon などで確認することができますが,この本は格闘シーンですね.
- マスターショット2 [ダイアローグ編] 単行本 – 2011/12/23
クリストファー・ケンワーシー (著), 吉田俊太郎 (翻訳)
本の表紙の絵からとても印象的です.打ちひしがれている男性,そっぽを向いている女性.左に大きな余白.amazon などで表紙を見てみてください.
- マスターショット3[応用編] 1つ上のクオリティを目指すための撮影術 単行本 – 2013/10/26
クリストファー・ケンワーシー (著), 石渡 均 (翻訳)
おお!3巻まで出てたのか.今度探して見ておこう.
- フィルムスクールで学ぶ101のアイデア 単行本 – 2011/5/26
ニール・ランドー (著)
これは構図というより内容も含めてのアイデア集.イラストと文章で説明されています.
- 傑作から学ぶ映画技法完全レファレンス 単行本 – 2002/2
ジェレミー ヴィンヤード (著)
これもイラストがかなり使われていて,映画の絵作りが分かりやすく書かれています.
色々発想に役立つんじゃないかと思います.
- Filmmaker's Eye -映画のシーンに学ぶ構図と撮影術:原則とその破り方- 大型本 – 2013/9/3
グスタボ・メルカード (著)
きれいな写真と詳しい説明が載っています.最初に理論の概要が載っていて,あとは
テクニック(デザインパターン?)が原則的なルールとルール破りという形で載っています.
私が先ほど例に挙げた,肩越しのイメージはこの本に載っていました.
- マンガの構図に関する書籍
構図については,マンガの描き方の本に少しずつ載っているのですが,構図や
表紙の絵を考えるのに役に立ちそうな本としては次のものがあります.
- (本当は絵画の構図が最も古く静止画としては経験が蓄積されているのでしょうが,
私が得意でないのであまり調べてません)
- 一般的なレイアウトに関する書籍
やっぱり表紙はタイトルなど字を配置しますから,絵の構図だけでは収まりません.
文字の位置やフォント大きさ,太さもさることながら,配置した時のコントラストなど
きちんと読めるようにするには,メリハリを付けるためには各種の文字の大きさを
どのような率にすれば良いか等,考えることが沢山あります.ここはやはり,
長年蓄積されたレイアウトの書籍に教えてもらうことが大切だと思います.
いくつか参考書を挙げておきます.これらは私が見たものだけなので,
他に良いものが沢山でているかもしれません.皆さんも探して見たら
自分にあったものに出会えるかもしれません.
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