(初期)AI 時代の教育
2023年4月25日(火)
ChatGPT が現れてから,このような AI システムを教育で使って良いかどうかなど,教育での対応をどうするかという議論が色々なされている(AI は,ChatGPT だけではないので,以後,AI と言うことにする).
- 教育において,AI を使用可能にするか? 先生は? 生徒は?
- レポート作成に AI を使うことをどうするか? 全部,部分.
- 試験に AI を使われないようにするにはどうすれば良いか?
- 論文作成に AI 使用を許して良いか?
テレビでも,教育で AI を使うべきという人たちと,
使うべきではないという人たちが喧々諤々で意見を
交わしている.使うべきという人たちは,
社会に出て,AI を使って仕事をすることになるので,
教育においても,その効果的な使い方を教えるべき
という論調の人が目立つように思う.使うべきでないという人たちは,
レポートなどで AI を使ったものを出すのでは,それはその人の能力ではないのでずるい.
AIにレポートを書かせて単位を取るのではまったく勉強になっていない.
のような論調を耳にする.大学でも,対応が分かれているようだ.レポートを全部 AI に
書かせて良いという大学は聞かないが,活用は良いとする大学と,まったく使わせないという
対応まで,対応は様々のように思う.
私はというと,基本的には,先に上げた,「社会でAIを使って仕事をするようになるのだから,効果的な
使い方を教えるべき」という意見に賛成である.
しかし,一方,先の考察
AI で強化された人間の能力の第一次近似 y = A*x + B (x は地頭)
で,AIによる人間の知的能力の拡大の第一次近似式として説明した
y = A*x + B
x は地頭
に基づく懸念がある.先の考察「AI で強化された人間の能力の第一次近似 y = A*x + B (x は地頭)」では,プログラムが全くできない人,
プログラムは大学卒業程度に出来る人,大規模なシステム開発の経験のある人が,それぞれ,AI を使ったとき
どのような成果をあげられるかという思考実験を行い,それらの成果がかなり違うだろうことを見た.少なくとも現在の AI はそれを利用する人の能力を拡大してしまうのである.
少なくとも,しばらくは,AI ですべてが解決する訳ではなく,A*x の項が効いていて,
さらにそれにより,人間+AI 間の競争が成立するので,そこは大事にすべきと思うのである.
特に今から就学する子どもたちは特別なケアをする必要があると思う.
子どもたちには,
まだ,x がほとんど無い.したがって,AI を与えて,大人と一緒に勝負させれば,殆どの場合
負けるはずだ.大人たちは,子どもたちの育成を大事に思っているので,こういう力の差があったとしても
子どもたちを保護し,ビジネス上の競争からは外してくれる(そのかわり,受験競争には放り込むが).
それで,懸念はなにかというと,現状,AI を使って仕事をする社会での子どもの教育方法がまったく
分かっていないということである.先に近似式 y = A*x + B に従えば,
子どもたちは,成人して
社会に放り出されるまでに十分な地頭 x を身に着けることが必要である.
素朴に考えれば,それには,我々が学習してきたのと同様に,
AI に頼らない学習が好ましいように
思う.そうやって,十分に鍛えられた人と,あまり,
そこを鍛えなかった人では,同じ AI を使えるように
なったときの能力が違うと思う.
ということで,私としては,教育においては,AI を使わない時間をある程度とって,
地頭を鍛えるようにすることが必要なのだと思う.しかし,安易に AI が提供される中で
そういうことが可能なのか.AI を使うと,与えられた課題がすぐ解けるという中で,あえて,
子どもたちが
AI を使わないで,地の頭で悩んでみる気になるだろうか?
私は,2週間くらい前に ChatGPT の威力に驚かされて以来,このような疑問をずっと抱えてきた
訳だが,なんとなく,この対応の方針が見えてきたように思える.
それは,
教育における教師はアドバイザであり,生徒の育成に全責任を負う訳ではない
という考え方をとるという方針である.つまり,
- 教師としては,地頭 x を鍛えるためには AI を使わない時間を一定期間設けるべきと
思うので,生徒にはそう指導するし,父兄にもそれを進める
- 塾なども,そういうことを知っている場合は,同様に
生徒と父兄にそれを推奨する.
また,塾ごとに地頭を良くする秘訣があるだろうから,その成果が塾の評判を左右する.
- このように教育側は生徒の能力を伸ばすもっとも良い方法を推奨するが,それに従う・
従わないは生徒やその父兄の自由である.
- 今でも,このような状況は生じている.先生や塾の講師は,生徒の能力を伸ばそうと思い,
いろいろ苦行のようなアドバイスをするが,それを受け入れるかどうかは生徒や父兄の
自由である.でも,その方法に効果があると分かれば,親たちはある程度受け入れ,
子どもたちに強制するだろう.
ということである.今でも,先生が言うことを聞かずに,つい遊んで勉強せず,成績を落として
いく生徒はいる訳で,(初期)AI時代でも,アドバイスがちょっと変わるだけで,それをよく
聞き,成績を上げる生徒と,そうでない生徒がいるということになるのだろう.もちろん,学校や教師は
生徒のためを思い,できるだけ生徒が脱落しないように努力することは必要だとは思うが.
こういう,ドライな「開き直り」の立場に立てば,我々がやるべきことが見えてくる.
- y = A*x + B を作業仮説にして
- 一般に x を大きくするにはどうすれば良いか
- x が大きいとはどういうことか? 具体的にはどんな能力が望まれるのか?
- x を大きくするためには,本当に AI を使わないで学習する時間をとることが望ましいのか?
- AI を着用したまま,x を大きくすることはできないのか?
- AI を外す時間と装着する時間の両方を許すようなブレンド学習の手法は無いのか?
- x の大きさを測る方法として,AI を着用したまま測る方法は無いのか?
・・・
- AI 支援の人間の能力のより正確なモデルの構築
y = A*x + B は,あくまで,現状で私が思いついた作業仮説的なモデルである.
これを精査して,より適切なモデルを作ることが必要であろう.また,AI も
どんどん進歩していくため,モデルも段々変わっていくと思われる.特に,
私の作業仮説の B の項が大きくなってくると思う.それに対応する方法を考えないと
いけない.
- AI 支援の状態の継続が人間,特に,児童に与える影響の研究
大人でもだが,AI との対話は,やり方によってはフルにその人の脳のリソース使用を
強いられることがある.これが長時間続く場合,人間は疲労しないのか? あるいは,
心に悪い影響はないのか? 特に児童に対する影響はどうか?
・・・(その他いっぱい)・・・
上記は,今,頭に浮かんでいたことを書きなぐっただけなので,あまり奇麗に整理されていないと思う.
AI 利用は,否応なく進んでいくと思う.したがって,早急に,
これらの洗い出しと整理を行うことが必要ではないだろうか.
教育学には無理難題を押し付けることになると思うが,AI の出現により,今すぐに,暫定でも手を
打たないといけない課題が山積みだと思う.そう,悠長に議論はしていられないので,
走りながら,考えていく必要があると思う.
もちろん,こういったことは児童相手だけでなく,一般の大人に対しても必要であるから,
心理学でも早急に動き出す必要があると思う.
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