概要説明

Steve Awodey : Category Theory

( The list of One page summaries for the chapters (English)

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Image of the Cover of Awodey's Category Theory, Picture of Adjoint Functors drawn by Akihiko Koga

圏論の教科書としてはかなり定評のある本です.

この本に対して,私は,自分で勝手に右のような感じの表紙をつけて,持ち歩いています.

ちなみに,この絵は,随伴関手(Adjoints あるいは, Adjunctive functors)をなんとなく カッコよく描いてみたつもりのものです.

もうひとつ,ちなみに,一般にプリントアウトしたものを持ち歩くとき 簡単にでも製本すると気持ちが良いです.このような簡易製本のノウハウを 製本 DO IT YOURSELFに書きましたので,ご興味が あればそちらもどうぞ.

Awodey の本の 2006年版は,Awodey 自身の site の ここの一番下の

Weekly lecture notes are here.
のリンクをたどったところから見えるようです.

Awodey 先生の圏論の講義は Youtube にも動画がアップロードされており, そのプレイリストが

https://www.youtube.com/playlist?list=PLGCr8P_YncjVjwAxrifKgcQYtbZ3zuPlb
に作成されているようです.この本は,一応,簡単,かつ,きちんと書かれた本として 定評があります.上のLogic Matters : Category Theorydでも,「世の中には沢山のテキストが あるんだけど,とにかく2つ挙げさせてもらうと,このAwodeyの本と Leinster の本だ」と 書いてあります.

では,以下,目次に従って各章の扉のところの説明をまとめて行きましょう.

  1. Categories
    第一章は残念ながら,章直下の概要説明はありません.目次を見ると まず,集合と関数で圏のイメージと学ぶ動機を与えて,あとは,圏の定義と例, 同型の定義,圏の構成方法,自由圏(free category),圏の大きい・小さい・局所的に小さい の説明がなされます.

    圏の例は結構沢山紹介されていて,全部で13個あります.

    1. 集合と関数の圏 Sets (バリエーションとして Setsfin),
    2. 構造を持つ集合の圏 (群と準同型,ベクトル空間と線形写像, グラフとグラフ準同型,実数と連続関数, ...)
    3. 半順序集合の圏 Pos
    4. 関係の圏 Rel
    5. 有限の圏 : 1, 2, ...
    6. 圏の圏(関手の定義がここで)
    7. 前順序(Preorder)そのものの圏
    8. 半順序集合そのものの圏
    9. 位相空間
    10. 論理式の集合と証明
    11. 関数型プログラミング言語
    12. 離散圏
    13. モノイド(1 object の圏として)

    他の本もですが,圏の例が 沢山紹介されている本が多いです.つまり例がとても大事なんですね.悲しいかな, 数学専攻以外の読者にとってはあまり例がぴんときません.「群? ベクトル空間? 位相? 何? それ,おいしいの?」 ってな感じですよね.

    でも,計算機科学側の学習者としては,例として,論理式の集合や関数型プログラミング言語が あるのは嬉しいですよね.

    あと,注意として, 前順序(Preorder)と半順序 (Poset) は,そういう構造を持った集合の集まりの圏じゃなくて, 1つの集合そのものが圏になります.つまり,その集合の要素がオブジェクトになり, 要素 x, y に順序関係が あるとき,形式的にx から y に射が1つあるとしたものです.最初は,圏の例を 示すために無理やり持ってきたように見えますが,これらは圏というものの構造の一端を担う とても重要な圏です.あとの方で圏論の最高峰として随伴関手(Adjoint Functor)という ものがでてきますが,これを前順序で解釈したものがガロア接続(Galois Connection)です. ガロア接続は,代数学のガロアの理論の一番外側の骨格になっているだけでなく, 形式的概念分析 (Formal Concept Analysis),プログラミング言語の抽象解釈 (abstract interpretation)などに使われます.

    あと,「1.6 CONSTRUCTIONS ON CATEGORIES」 は,しっかりやっといてください.すでに 存在する圏(あるいはいくつかの圏)から新しい圏を作る方法ですが, そこに出てくる Slice CategoryCoslice Category は結構重要です.また, その前に出てくる Arrow Category も重要です.こういうことを言えば, すべてが重要なのですが,まあ,これらは射をオブジェクトと見ることで 新しい圏を作りだす方法で,ものの見方を変える上で重要ですし, いくつか身近な例で試してみると色々遊べて楽しいです(例えば,poset (P, ≤) で z∈P に対してsliceカテゴリー P/z を作ると,これはz以下を1つの要素につぶして しまったposetを作ることと同じですね.束論風に言えば,z のダウンセット ↓z で, もとのposet P を割った商空間P/↓z を作ることと一緒です).後々,例えば, 米田のレンマのところでは,射単独ではないですが,射の集合をオブジェクトとみる 必要がでてきます.ですから,そのような(少し高階の)思考に慣れるためにも, ここで,楽しみながら 射をオブジェクトと見る練習をしておいたほうが良いです.

    次に続きます.二章以降は,章直下の概要説明があるようですから,それを 記述していきます.

    今,全体をざっと読んでみました.Awodey 先生は,章はじめの 概要にあまり,具体的な内容を書かない人みたいなので,書いてあることを そのまま載せても分かりにくいような気がします.ということで, 目次などから適宜キーワードを拾って,補いながら書いていきます.

  2. Abstract structures
    第2章は,オブジェクトと射に関する色々な概念を,圏論的に,つまり, ほかのオブジェクトや射との関係で表現することを学びます.下の図の 左上のCharacterization of Properties と書いてある部分ですね.
    Awodey chapter2 Abstract structures in Category, one-sheat explanation

    ここでは,記述されるオブジェクトや射が演じる役割と他のオブジェクトや射との関係 (the role they play in the category, thier relations to other objects & arrows)が 重要で,それらが「何であるか?」あるいは「何で出来ているか?」(what they "are", "are made of")は重要ではありません.こういう特徴づけは,Abstract, Structural, Operational, Relational, External (v.s. Internal)であるということができます. この章ではこのような特徴づけとして,

    を学びます.これらの特徴づけや次の章(Dualities)で述べる特徴づけを通して, このような特徴づけの最も基本的な方法として, UMP : Universal Mapping Property を 認識することになると思います.

    UMP : Universal Mapping Property という言葉と定義は第1章で すでに定義されて います.ただ,圏論の初心者は,まだ,読み始めたばかりの第1章でこれだけ重要な 概念をさらっと出されても,なかなかそれを受け止めるだけの準備はできていないのでは ないでしょうか? 第2章を読んでいる最中に "1.7 Free Categories" に定義してある UMP のところを良く読み返すことをお勧めします.大雑把に言ってしまえば,UMP とは

    与えられた条件を満たすオブジェクトと射のうち最も一般的なものが(同型を除いて)一意に決まる
    という 性質です.簡単なところで似た概念を探すと(本当は「似ている」のではなく本質的に同じなのですが),
    順序集合(Poset : partially ordered set)では,最大の要素は存在すれば一意に決まる. (前順序集合(Pre-ordered set)では,同値を除いて一意に決まる)
    がイメージを掴みやすいと思います.

  3. Duality
    ここでも abstract characterization を見ていくみたいですが,特に,射を ひっくり返して出来た概念(Dual : 双対)を見ていきます.
    Awodey chapter3 Duality in Category, one-sheat explanation
    すでに第2章で,Initial object 対 Terminal Object,Epi 対 Mono のような 双対の概念を見ているのですが,この章では,それを,よりシステマティックに 見ていきます.具体的には,まず,射をひっくり返して双対の概念を作る方法を 学び,次に,Product の双対の Coproduct,Equalizer とその双対の Coequalizer を 学びます.

    これらは射をひっくり返しただけなので,最初はとても当たり前(trivial)に 感じると思いますが,結構,深遠で強力なものなのです.

    私の経験でも,実際,射をひっくり返しただけでこんなに元の概念と変わってしまうのか と驚くことが多いです.特に,関数の概念は多:1で(つまり,相手が一つに 決まればよいので),射の元と先で対称性を持っておらず, 双対をとると容貌が変わってしまいます.例えば,集合と関数の圏 Sets ではinitial object は 空集合でただ1つしかないのに,terminal object は singleton set (ただ1つの要素から なる集合)で無数にあります(すべて同型ですが).これに対して,関係(relation)を射に とれば,initial object も terminal object も空集合です.

    圏論から離れて,例えば, 半群論で,関数の半群 S ⊆ (A→B) では右ゼロは簡単に作れるのですが, 左右を入れ替えた左ゼロはちょっと考えないと難しいです(A, B は集合,A→B はAからBへの 関数の集合とします). 実際,右ゼロとなる関数はAのすべての要素をBの同じ1つの要素 b に飛ばせば,それが 右ゼロですが,左ゼロの関数 f を作るためには,すなわち,その関数の適用のあとに別の関数を適用しても結果が変わらないようにする(f∘g = f for ∀g∈S)ためには,考える関数 の集合 S を予め制限しなければなりません.もしこの例が分かりにくかったら忘れてください.

  4. Groups and categories
    第4章は群とカテゴリーの関係です.

    Awodey chapter4 Groups and Categories, one-sheat explanation

    ここでは次の3つの観点から,群論と圏論の関係を考察します.

    1. Groups in a Category
    2. the Category of Groups
    3. Groups as Categories

    まず,Groups in a Category は圏の中に群を構成する方法です.有限積のある圏を とり,その圏の中のオブジェクトGが群であることを記述するために, 単位元 u : 1 → G, 2項演算 m : G×G → G, 逆元をとる1項演算 i : G → G を 持つことを課し,さらにそれらが群の公理(結合法則を満たす,単位元がある, 逆元がある)を満たすことを課します(普遍代数っぽいです).これは, 圏の中にこのような演算を持つ体系を表現する常套手段みたいです.

    次に the Category of Groups は,以前に例として示した,群をオブジェクトとし群の準同型を 射とする圏の中で,群論の基本的な概念(準同型 h に対するカーネル ker(h)など)を 表現する方法です.ここでは例えば,equalizer が カーネル ker(h) になることが示されます.

    最後に,Groups as Categories ですが,これは群論での商群を作ったり, カーネルを求めたりといった操作が,圏の圏(圏をオブジェクトとして関手を射と する圏)にも適用することができるということを学びます.例えば,群論の中で 行うように,圏の圏の中でも,商圏やカーネル圏が作成できることが示されます.

    この章の概要の最後で,「もしあなたが,すでに群論の基礎的な知識があれば, ここでやっていることを 見ることですでに学習した1章から3章までの深い洞察を得ることができる だろう」と言っています.さらに,「もし,群論を知らなくても,ここで圏論を 応用して群論を学べば良い」と言われています.本当に,群論の基礎を知らなくても この章を読んだだけでそれを学習することが出来るかどうかは分かりません.私は,分からなかったら, この章は雰囲気だけ掴んで,気にせず,次の章に行ったら良いと思います.確か, この本でも,また, Leinster の本でも,「例は全部分からなくても気にするな」と 書いてあったと思います.

  5. Limits and colimits
    第5章は Limits と Colimits です.だいぶん,圏論らしいところに入ってきました. 実は,第5章はそれぞれのトピックスの位置付けに関して,若干,自信がないです.その理由は 後で書きます.とりあえず概要を説明します.どちらにしても,最終的に内容を 判断して,Awodey の本を読む参考にするかどうかは皆さんが決めることですから.

    Awodey chapter5 limits and colimits, one-sheat explanation

    まず,図の上部 We start with Brief Discussion と書いてある箱を説明します. 第5章の最初では,まず,今まで学習したこととその延長のような概念,Equalizer, Monic, Generalized elements, Subobject, Pullback などの概念を使って, 数学における,すでに皆さんが知っている概念を表してみます. Pullback は,あまりなじみがない人もいるかもしれませんが,Awodey の教科書に よると,数学や論理学で頻繁に現れるとても重要な概念で,Product を少しだけ 複雑にしたものです.また,ここで表す数学上の概念としては,一つは部分集合, 部分群,部分代数など,部分の概念で,これは Monic で表します.もう一つは, 逆写像や共通集合,あるいは,それらを合わせたような概念で,これを Pullback が 担当します.

    また,教科書の前半では,Product, Equalizer, Pullback, Terminal Object などの重要な 性質もみていきます.それは

    圏にProducts とEqualizers があれば,Pullbacks と Terminal Objectsも 存在するし,逆に Pullbacks と Terminal Objectsがあれば Products と Equalizers も 存在する.
    という性質です.先回りして言うことになりますが,この性質がなぜ重要か説明しておきます. この章ではいままで述べたような Pullback などの概念を一般化した Limits と Colimits を説明 するのですが,Limits は Products と Equalizers が あれば作れるのです.したがって, それら二つの代わりに,Pullbacks と Terminal Objects があっても,やはり Limits を作れることになります.上の性質は,こういう Limits を作れる条件に 関係してくるのです.ちなみに, Colimits は, Coproducts と Coequalizers があれば作れます.

    これらの Brief Discussion を十分楽しんだあとに,よりシステマティックに, このような概念の定義に取り組んでいきます. General Notion of "Limits and Colimits" と書いてある2番目の大きな箱の中を 説明していきます.

    Limits/Colimit の概念は圏の中の与えられた図式を満足するオブジェクト(と射)の 中で UMP (Universal Mapping Property) を満たすもののことを言います.ここで図式と言っているのは,圏の中の いくつかのオブジェクトとそれらの間のいくつかの射を選んだものです. あるオブジェクト C からこれらのオブジェクトへの射が可換であるとき,C は その図式の Cone であると言います.

    上で私は,オブジェクト C からの射が図式と可換であることを「図式を満足する」と表現 しましたが,実は図式は,オブジェクトと射に対する条件を表しています. 等式で表される条件ですし,一般には複数のオブジェクトと射が絡みますから,連立方程式みたいな条件です.で,Cones の集合は, その図式の条件を満たす解の集合に相当します.その中の UMP を持つオブジェクトは 解の中の最も一般な解を表します.ちょっと直観的,かつ,荒っぽい説明でしたので, 正確には教科書を読んでください.ただし,このような直観を持っておくことは 役に立つと思います.

    Colimits については,Limits の Dual をとったものです.

    以上,説明してきたものが Limits と Colimits で,これらの例としては今まででてきた,Product, Coproduct, Equalizer, Coequalizer, Pullback, Pushout, などがあります.

    あとは,Limits と Colimits に関する話題がいろいろ展開されています.まず,さきほど言った, Product と Equalizer があれば,Limits は作れること. それから極限を保つ関手のこと.これは色々な応用がありますが, 上の図に書いてあるような同型式などを簡単に証明できるようになります. もう一つの話題は極限を作る関手ですが,これは変換した先の圏で極限が あれば,その逆像,つまり出発点側の圏にも極限があるような関手で, 群論などでの議論を忘却関手(Forgetful functors)を使って,集合の圏の 議論に帰着させることができます.

    これが本章の概要ですが,章直下の概要説明には,続きが書いてあって, この章の後,第6章で,もう一つだけ基本的な概念(Exponentials)をやった 後,第7章(Functors and Naturality)で,いわゆる, "Higher Category Theory" と 呼ぶべきものに進むので楽しみにしているようにと書いてあります.

    でも,私は,この章の内容も,次の章の内容も楽しいです.とくに次の章は Exponentials で, これは関数の空間や論理学の「ならば」(A -> B)を作ることに関係していて, 応用上も重要です. そのことを こそっと上の絵の中にも書きました.

    これでこの章の概要説明は終わりです.

    最初に,この章の概要で位置づけについて自信がないと言いました.これは, 最初の Discussion の部分で,数学上の部分集合や逆写像を Monic や Pullback で 表すところがあるのですが,これは単に,Limits/Colimits の具体例となる概念が 重要であることを示すためだけなのかどうかが自信がないのです.それだったら Limits/Colimits の章でなく別の章で圏による数学上の概念の表現の有用性の 説明の章を設けても良いように思えるし,第一,Monic がすぐ,極限と結びつかない など色々疑問がわいてくるのです.解説文の中に疑問を色々挟むのは 読者に対して不親切で,申し訳ないです.でも,本当によく分からないので,正直に 書いておきます.

    でも段々長くなってきたなあ.1ページに収まるかなあ?

  6. Exponentials
    はい.前回の予告の通り,第7章からの Higher Category Theory に行く前の もう一つ基本的な概念 (one more elementary notion)Exponentials です. Elementary notion といいつつ,Cartesian Closed Category (CCC) という 応用の面からも,今後展開される考え方に馴染むステップとしても, とても重要だと思います.

    Awodey chapter6 Exponentials in Categories

    前章まで, Equalizers, Products, Pullbakcs など,多くのUMPを表す概念をLimits/Colimitsという 概念になんとか統一してきました(1).でも,Free Alggebras はまだです. これは, Limit/Colimits より深いところにある Adjoints という考え方に よらなければ統一的な扱いはできません.これは9章でやります(2). この章では,(3) の,Limits/Colimits で統一できないもうひとつの 概念の Exponentials を見ていきます.これは集合の圏では, 集合から集合への関数の集まりに相当します.ただし,圏論的な扱いをすることで, 単なる関数の集合だけでなく,論理学の含意(ならば)なども扱うことが できるようになります.集合 A から集合 B への関数の集合は A→B.命題 p ならば命題 q は p → q.どちらも記号「→」で表します.これも何らかの必然性があったということでしょうか.

    この章のトピックスとしては以下の通りです.

    1. Exponentials の定義
    2. 有限 Product と Exponentials を持つ圏 CCC
      (CCC : Cartesian Closed Categories)
    3. 圏がCCC であることを素早くチェックする方法として,いくつかの等式を確認する方法
    4. CCC による直観主義命題論理とλ-計算のモデルの構築
      • poset のCCC にCoproduct の存在を課した圏である Heyting Alggebra で直観主義命題論理のモデルをつくる
      • 一般のCCCでλ-計算のモデルを作る
    5. Variable sets の圏
      これは形式的体系 L の Kripke models に関係するもので,直観主義命題論理とλ-計算の特殊な意味論を提供することができるとのこと.Kripke model は,この定義を見ると多重世界の意味論みたいですね.

    結構,もりだくさんで,Exponentials は使いでがありますよね.

  7. Naturality
    第7章は Naturality です.私はこの章の構成を掴むのに苦労しました.各節の役割が あまりピンとこないのです.実は,それを確かめるために別の人の圏論の本も読んでみました (Peter Smith : Category Theory : Gentle Introduction,). で,その読んだ本もAwodeyの本と似たようなことが書いてあって,結局,達した結論は,
    (圏論に携わっている)数学者にとって,Natural Isomorphism という概念の比重が,私たち 門外漢に比べてとっても大きい
    のではないかということでした.私が混乱したのは,「ここはNatural Transformation」の 章なのに何で Natural Isomorphism ばかり書いてあるんだ」ということでしたので.たぶん, とても重要なのでしょう.
    Awodey chapter 7 Naturality

    この章は,最初に,圏の圏の性質がいくつか(Product, Coproduct, Equalizer を持つなど )の レビューがあって,次に関手についての基本的な用語を定義します.injective/surjective on objects/arrows, と faithful, full です. 特に, faithful, fullは重要です.injective/surjective on awwors との区別を しっかりつけておきましょう.本文中にも,faithful と injective on arrows を区別する例が載っていますが,ここでもちょっと人為的だけど直観的に分かると思われる図を載せておきます.

    次にこの章の動機付けの例を2つ,詳しく見ていきます.Hom functor と Stone duality です. これらは Natural Isomorphism を理解するための例だと思って読んでください.

    その後で,Natural Transformation の定義がなされて,それによって

    1. 関手をオブジェクトとし,Natural Transformations を関手の間の Arrows として, 一段高い圏 Func(C, D) を構成することができること
    2. 圏 Func(C, D) は圏C, Dの Exponential になっているので, 圏の圏 Cats は CCC であること
    を学びます.

    これらのもとに,色々な関手の圏やMonoidal 圏の定義の仕方,圏の同値関係の概念を学びます. 特に,ここで定義する圏の同値関係は,2つの圏が同型ではないのだけど,ほとんど同型といった ,より広い同値関係を導入しますので,圏を理解するのに有用です.この圏の同値関係は 第9章で学習する随伴関手(Adjoints)の特殊な例になっています. ということでも,この章は大事ですし,次の8章から最後までの基礎になっていますから, この後ろの章で分からなくなってきたら,この章を読み直すのが良いと思います.

    あと,圏論の圏論を考えるわけですから,これらの中にはいわゆる「Abstract Nonsense」に 見えるものもあるわけですが,これらは,実際に我々の手元にあるそれぞれの 特殊な問題に具体化することができる一般的な圏であり,決して「Abstract Nonsense」では ないよとも言っています.

  8. Categories of diagrams
    第8章は米田のレンマです.Hom Functor の表現力がとても強力であることが示されます. 米田のレンマは一種の表現定理です.具体的には,(局所的に小さな)圏は, 圏 [Cop->Sets] に full かつ faithful に埋め込むことが できるというレンマです.Awodey の2005 年版では,章の扉の短い説明に, 「米田のレンマがいかに強力か」ということが強調されて書かれています.
    「米田のレンマはとても有用なテクニックで, 圏論の中で単独で用いられる結果の中ではもっともよく用いられるレンマだ. Amzing ! いったい,何度現れるのだろう?」
    と 書いてありました.と言うか,扉の説明にそれしか書いてなかったので, 読者には,Awodey が感激していることだけが分かって,この章で具体的になにを やるのか見当がつかなかったんじゃないかと思います.この部分は後で修正されて, Amazing ! の部分が落とされて,章の具体的な内容が少し入りました(個人的な希望としては Amazing ! は 残しておいてもよかったように思います). あと,この米田のレンマは,群,半群(モノイド)での Cayley の定理や, 順序集合の,冪集合(Powerset)や順序イデアル(Order Ideals)による表現の 素直な拡張になっています(それらも表現定理です).
    Awodey chapter 8 Categories of diagrams (Yoneda embedding, lemma)

    で,この章の内容は,

    です.

  9. Adjoints
    当面,章はじめの短い説明を素直に書き起こした手書きのラフを置いておきます (ラフ版はあまりに英文の字が読みにくかったので,そこだけ活字にしました). Awodey chapter 9 Adjoints

    これが「当面」なのは,次のような 必要な情報がまったく入ってないからです.

    1. Adjoints はどんなものか(定義またはそれを感じさせるもの)?
    2. Adjoints と圏論のレンズでしか見えない数学的現象とは何か?
    3. 基本的な論理的かつ数学的な重要性とは何か?
    4. Most striking Categopry Theory Application とは何か? それに Adjoints がどのようにかかわっているのか?
    5. Adjoints のインスタンスになっている多くの基本的数学的概念とは何か?
    6. これらの共通した振舞いとAdjointsの形式的な性質とは何か? また,それらから説明される本質的な特徴とは何か?

    これらを考えながら読めば良いのかもしれませんが,私が欲しい 「先行オーガナイザ」の役割を 十分果たすためには,多少のキーワードは入っていて欲しいと思います. 今のところ,これらを多少でも書き加える積りですが,いつになるかは分かりません. これをおいておき,他のものにとりかかるかもしれません.

    一応言っておくと,Adjoints は2つの圏から相手に向かう関手があり, それらがある関係を持つことで相互に拘束しあっている関係です.

    一言不満を言うと,私としては この説明の仕方よりは,それぞれの圏が,ある共通の骨格の圏とある関係に なっているという説明が分かりやすいと思うのですが,そういう説明を陽に している本は見たことがありません.調べ方が足りないのか,やっぱり, 一般の本のような Adjoint の説明の仕方の方が良いのか.

  10. Monads and algebras
    最後の章のモナドと代数です.

    Awodey chapter 10 Monads and Algebra

    ここでは,まず,等式の集合で規定される代数 T-Algebra の圏から集合の圏への 忘却関手 U の left adjoint として,T-Algebra の Free 関手の存在が 保証されることが,前章の Adjoint Functor 定理から導かれるということを 思い起こします.

    次に「モナド」を,ある種の代数系を規定する自己関手 T : CC として定義し,モナドが Adjoints と深い関係を持っていることを示します. つまり,F -| U という Adjoint があるとき,T = UF とおけば,T はモナドに なり,また,T から Adjoints の組 F -| U を構成する方法がある(Eilenberg-Moore の方法とKleisli の方法)ことが示されます.モナドの例としては, closure operation (位相空間で集合に対して,それを含む最小の閉集合を割り当てる 演算など),集合のパワーセットを割り当てる関手,自由モノイドを割り当てる関手 などがあります.

    この章では,モナドでない自己関手 P : SS から代数系を作成 する方法についても解説され,最後に,その代数系がモナドになるための条件も 示されます.

    この章では,モナドが Adjoints と相互に変換しあえる関係であることと 自己関手からの代数系とモナドの関係だけが述べられ,モナド自身や自己関手を 使った代数系がどのように使われるかは載っていません.

    これでこのテキストは終わりです.あとは,このテキストで身につけた基礎を 頼りに,荒海にのりだすか,あるいは,もっと専門的な本を読むかということ なのでしょう.

    ということで,Awodey の Category Theory の解説もこれで終わります.


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